題名 | 屋内用歩行者ナビゲーションにおける階層構造表現に特化した経路表示手法 |
著者 | *廣石 敏行, 戸川 望, 柳澤 政生, 大附 辰夫 (早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工学専攻) |
Page | pp. 1844 - 1850 |
Keyword | 歩行者ナビゲーション, 経路表示, 階層構造, 鳥瞰視点, 携帯電話 |
Abstract | 携帯電話の性能の急激な進歩により情報通信サービスが広く展開されてきた.それに伴い,携帯端末上での歩行者ナビゲーションサービスが注目されるようになり,現在では徒歩だけでなくバスや電車などの交通手段も組み合わせたナビゲーションなど多様なコンテンツが実現されている.しかし,これらのサービスは屋外を対象としたもので,屋内を対象としたサービスは実用化の段階に届いていない.一方,近年の建築物は郊外の大型ショッピングモールやデザイン性に富む複雑な建物が増えており,都市部への各種施設の集中という傾向にあることから建築物の深層化・煩雑化・大規模化が進んでいる.そのため,屋内は屋外以上に構造が複雑で迷いやすく,屋内向け歩行者ナビゲーションの必要性が増している. ここで,屋内向け歩行者ナビゲーションにおける携帯端末上での経路表示に関して考える.屋外は一般的に階層構造を持たず開放的であり,交差点と道路で空間を構成する.それに対し,屋内は一般に階層構造を持ち,閉鎖空間であり,広間とそこから派生する廊下と階段等で空間を構成するとされている.特に,階層構造は重大な特徴の相違点である.例えば,表参道ヒルズでは,螺旋状の坂道に店が並び階層構造を持つが階層の境界が明確でない.駅や空港では階層移動の際に1階から3階への直通のエスカレータ等の複雑な階層構造もある.このように,屋外と特徴が大きく異なる屋内に真上からの視点や単純な鳥瞰視点といった従来の経路表示手法を適用するだけでは地図の描画が困難であり経路理解の妨げとなる. 経路表示に関する研究は,屋外では一般に階層構造がなかったことから,地図のデフォルメ化手法に関する研究や案内文の生成に関する研究や有効なランドマークの抽出に関する研究など地図以外の情報に対する研究が多い.これらはいずれも屋外を経路表示の対象としている.屋内を対象とした経路表示の研究もあるが,これも複数の視点からの地図を冗長的に与えることを目的とした研究で,応答時間が短くなるような順序で複数の地図を作成するための方法論を説明しており,階層移動のときの表示に関しては言及されていない.ナビゲーションの基礎である空間構造の表現方法や屋内の特徴に関して深く議論されていない. 歩行者ナビゲーションの目的は,人を目的地に到着させることだけでなく,歩行中のユーザが案内通りの場所にいるかという不安やこのナビゲーションが正確なものなのかという不安を取り除くことも重要である.歩行中のユーザに提供するナビゲーションは深く考えさせることや描画のための待ち時間を与えることも望ましくない.人間が頭に思い描く認知地図は一般にサーベイマップ型であると言われ,サーベイマップをユーザに与えることは,ルートマップだけをユーザに与えることに比べて短時間で経路理解を可能にすることが知られている.一方,前述したように従来の経路表示手法では,立体的な階層構造をユーザに短時間で把握させることが困難である.案内する経路の一部として,階層構造を適切に表現しユーザに与えることができれば,ユーザは経路の概観を掴むことができ,直感的に階層構造を理解することができる.その結果としてユーザの不安を取り除くこともできる. 以上のような議論のもと,本論文では階層構造に特化した屋内向け経路表示手法を提案する.階層構造を表現するときに最も有効な視点として鳥瞰視点が知られている.提案手法は,経路探索結果と屋内地図データを入力としたときに,階層構造を表現したい部分で鳥瞰視点を用いることでユーザにとって直感的に理解しやすい経路を携帯端末上に表示するものである.提案手法は,階層の移動を含む屋内の経路を表示するときに以下の手順をとる. まず,経路全体を鳥瞰視点で表示することで経路全体の概観をユーザに掴ませ,大まかな認知地図を形成させる.鳥瞰視点にすることで上の階層が下の階層に覆いかぶさり下の階層の経路の一部が見えなくなるという問題が生じる.この問題に対し,経路自体と経路理解に必要な部分だけを抽出することで階層同士の重なりを引き起こす不要な部分を間引き,地図をxy平面上で回転させて視点を最適化することで解決する.経路理解に必要な部分は,経路自体と,経路に隣接する広間,廊下,階段とする.ここで,広間はその形状が特徴となることから広間全体を表示することにする.一般に経路は地図の中のごく一部しか通らず,閉鎖空間であるためユーザが認識すらできない場所が大半を占める.そのため,必要な部分の抽出は階層の重なりを軽減するために有効であり,携帯端末での利用が想定されるため描画データ量を少なくすることにも有効である.次に,経路の歩行中では平坦な道は真上からの視点で十分であり,必要な部分だけを抽出した階層別の経路表示とする.そして,階層を移動するときのみ,階段の手前で鳥瞰視点の表示に切り替えることで階層構造を理解させながら案内する.ここでの鳥瞰視点は,経路全体ではなく階段付近をさらに抽出したものである. 提案した経路表示手法を用いて,2次元ベクターグラフィック記述言語SVGにより作成した経路を携帯電話に表示し歩行実験を実施した.一般的な平面のフロアマップの地図と比較して,階層構造が理解できたか,不安を感じたか等のアンケート調査をすると共に階層構造を理解する時間を測定することにより,本手法の有効性を確認した. |
題名 | あいまいな目的地を複数持つ移動体ナビゲーションにおけるユーザ最適経路の計算 |
著者 | *沢柳 佑, 濱川 礼 (中京大学大学院情報科学研究科) |
Page | pp. 1851 - 1855 |
Keyword | 移動体ナビゲーション, 遺伝アルゴリズム, 経路探索 |
Abstract | 本研究では時間・行き先が決まっていないあいまいな目的地が複数ある時にそれらの行き先と順序を決定し,かつユーザの経路嗜好を満たすユーザ最適経路の計算を遺伝アルゴリズムを用いて行った.またユーザ毎に違う最適経路を計算するためにユーザ毎の経路に対する嗜好を評価関数の重みを調整することで学習させた. 従来のナビゲーションの目的は目的地を1つ決め,そこに至る経路と所要時間を計算することであった.しかし,これだけではユーザの要求を満たせない場合が多々ある.例えば,“10時に家を出発して,17時に帰宅する.その中で12時ごろにどこかで昼ごはんを食べ,都合の良い時間にどこかの本屋に立ち寄り,さらに都合の良い時間に図書館に寄る.”というようなあいまいなルールは現実には多く存在するが,従来のナビゲーションでは解釈ができない.さらに,ユーザにはそれぞれに経路に対する好みの違いが存在すると考えられる.例えば歩行者であれば,“定期券を持っている交通機関の利用”,“屋根の多い経路”,“できるだけ交通量が少ない経路”といった好みがあると考えられる.同様に車であれば“信号が少ない経路”,“できるだけ右左折が少ない経路”といった好みである.本研究の目的は時間・行き先のあいまいな目的地の行き先を決定し,その目的地の順序を最適化し,ユーザ毎の経路の好みを反映した最適経路を計算することである. あいまいな目的地の制約条件は場所的制約・時間的制約・移動手段制約の3つから構成される.場所的制約は固定制約,ジャンル制約のどちらかから成り,固定制約は“名古屋城”のような任意の固定の目的地を,ジャンル制約は“城”のようなあいまいな制約を条件に与える.時間的制約は目的地の到着時間,滞在時間,出発時間,目的地の前後関係の4つから成る.移動手段制約は目的地間の移動手段を徒歩,車,公共交通機関のいずれかで与える. ユーザ毎の経路の好みを反映するユーザ最適経路は,評価関数として次の5つ(1)経路長,(2)経路嗜好度,(3)立ち寄り地嗜好度,(4)必要料金,(5)経路実現性を持つ.ここで経路長とは全ての目的地を通った時の経路全体の長さ,経路嗜好度とは大通りを通るか,普段使う交通機関であるか,といった経路への嗜好度,立ち寄り地嗜好度とは場所的制約によって指定されたあいまいな目的地が適切な目的地を示しているか,必要料金は公共交通機関を使った際の料金,経路実現性は制約条件を満たした上で実行が可能な経路であるかを,それぞれ示す尺度である.最終的な評価値は前述の5つの評価値にそれぞれ重みをかけた値の和とする. あいまいな目的地の決定,目的地順序の決定,ユーザ最適経路の計算はどれかを先に計算できるものではない.あいまいな目的地を先に決定することでより良い経路を選択できなくなってしまうような場合があり,ユーザ最適経路の計算の為には目的地や順序を変えてこの3つの計算を反復的に行う必要がある.本研究ではその手段として遺伝アルゴリズムを用いる.遺伝アルゴリズムを用いる理由としては前述の3つの計算を並行して行える,一定時間を超過した場合に計算を打ち切ることができる,準最適解を複数得られるためにユーザに複数の経路を提案できる,以前の経路情報を保存しておくことで経路の再計算を途中から行える,といった利点が挙げられる. 遺伝アルゴリズムの遺伝子構成は,目的地の順序をコーディングしたものとする.実際には目的地に最も近い道路ノードの番号を,立ち寄る順に格納する.ここで場所的にあいまいな目的地は適合するジャンルの目的地をランダムに選択する.評価関数は前述の(1)〜(5)を[0,1]で正規化したものに重みをかけたものの和を用い,最も評価値が高くなるものを経路として採択する.ここで重みは(1)〜(5)のどれをユーザが優先するかというユーザそれぞれの嗜好を示すものとなる.交叉手法には順序交叉を用い,突然変異として,遺伝子のうち2点をランダムに選択して交換する2-opt法,場所的にあいまいな目的地のランダムな置き換え,の2つの方法を用いる.選択手法はトーナメント選択とルーレット選択の2つを組み合わせたものを用いる.終了条件は以前の探索結果と比べて評価値の平均がしきい値以下だった場合と,計算時間があらかじめ与えられた既定時間を超過した場合のどちらかを満たした場合となる. 経路の好みはユーザ毎に別のものとなるため,(1)〜(5)の評価関数に対する重みを調整することでユーザ毎の経路の好みを反映させる.計算された経路をユーザが許容した場合,(1)〜(5)の評価値の中で最も値が高かったものはユーザが重要としている評価値であると考え,その評価値に対する重みを増加させて他の評価値への重みを減少させる.逆にユーザが経路を拒否した場合,最も高かった評価値に対しては重みを減少させ,他の評価値に対する重みを増加させる. これらをラップトップコンピュータ上で実装し,経路の妥当性,計算時間,目的地が増えた場合のスケーラビリティについてそれぞれ検証した. |
題名 | Webサービスを導入したデマンドバスシステムにおける運行情報表示システムの提案 |
著者 | *小田 亮太, 宮崎 剛, 山本 富士男 (神奈川工科大学) |
Page | pp. 1856 - 1864 |
Keyword | Webサービス, マッシュアップ, デマンドバス |
Abstract | 近年、乗客の要求に応じた運行を行うデマンドバスの需要が高まっている.特に地方の過疎部では,路線バスの利用は下降線をたどり、行政の補助金でなんとか路線を維持しているという状況があるためである.本論文では、Google MapsとGeOAPのWebサービスを利用した、デマンドバスにおける運行情報表示システムを構築した.顧客の要求に応じてバスの運行ルートを決定し、Google Maps上に赤線でその経路を表示する.また、デマンドのポイント間の距離を算出して表示する.それにもとづき、出発地から全てのデマンドポイントまでの到着予測時間も表示する.さらに、バスの現在位置をアイコンで示し、その運行状況をアニメーション表示することもできる.バスが通過したポイントにはチェックマークを付加して視認性を高めている.このシステムを実用化すれば、顧客に高い利便性を与えるだけでなく、デマンドバス運行会社にとって、効率の高いバス運行が可能になると考えられる. |
題名 | Roundaboutパターン表示に適した制約つき最適化に基づく要約地図生成アルゴリズム |
著者 | *淺原 彰規, 丸山 貴志子 ((株)日立製作所 中央研究所), 嶋田 茂 (産業技術大学院大学), 住沢 紹男 ((株)ザナヴィ・インフォマティクス 先行開発本部 技術開発センター), 貴島 昌司 ((株)ザナヴィ・インフォマティクス プロダクトエンジニアリング本部 ソフト開発センター) |
Page | pp. 1865 - 1872 |
Keyword | 要約地図, デフォルメ, ITS, 地図情報 |
Abstract | モバイル端末の小さな画面には道路形状を単純化し見やすくした要約地図が適している.そのため,モバイル端末向けに要約地図の自動生成方式が研究されている.従来方式では道路形状の局所的最適性を表す項の和により目的関数を定義し,道路の位置関係や接続関係を保つように最小化する.しかし,従来方式は,道路の一部を円や矩形などのパターン形状にて表現した要約地図の生成には適用できない.そこで,欧州にて円や矩形として認識されているRA(Roundabout)とよばれる道路を含む地図を対象に,RAをパターン形状にて表示しかつ周辺道路をも要約する方式を提案する.提案方式では,最初にRAのパターン種別を道路形状から判定し,次に周辺道路と矛盾しないようにパターン形状にて置換する.その後,RAの座標を一般化座標に変換し制約条件を与えることにより,パターン形状を保ちつつ周辺道路を要約する.提案方式の有効性を検証するため,カーナビゲーションの案内用拡大図を想定して実際のデータに要約処理をかける実験を行った.その結果,RAはパターン形状にて表現しつつ,周辺道路も矛盾なく整形した要約地図の表示できることが確認できた. |