題名 | メインテナンスエフェクティブなネットワークについて |
著者 | *小野 悟 (静岡大学情報学部情報学研究科), 萬代 雅希 (静岡大学情報学部), 渡辺 尚 (静岡大学創造科学技術大学院) |
Page | pp. 1831 - 1837 |
Keyword | PLC, ホームネットワーク, ITS, 無線LAN, IPv6 |
Abstract | 急激に発展したネットワークシステム及びこれを取り巻く周辺装置や関連技術であるが、多種多様なソリューションをはじめ、乱立する機器等、いわゆるマルチベンダー化された各社製品群を有機的に結合・稼働させるためには相応のスキルが求められており、且つこれらの複雑怪奇なネットワークシステムの管理・運用のために、企業などの組織においては、実に多くの財的コストを費やしていることは周知の事実である。さらに、一般家庭においては、社会生活上必要不可欠となりつつあるインターネットへの接続という目的に対し、決して少額とはいえない経費を投下していることもまた現実であろう。このようにネットワーク環境を導入・運用するための維持管理コストが増大している情勢を踏まえ、関連技術者は帯域の向上や、利便性を実現するためのメソッドの開発に終始するのではなく、その存在を意識させることのない普遍的なインフラストラクチャとしてのネットワークシステムの実装に向けて、さらなる努力を費やすべきではないかと考える。例えば、爆発的に普及したUSB規格(Universal Serial Bus)を利用したコンピュータの周辺機器などは、プラグアンドプレイと称されるように、ほぼ何もしなくても機器の接続・運用が可能なものであり、こうした手軽さ・わかりやすさが普及の原動力になったといえよう。本論文は、ネットワーク環境の導入・運用における維持管理コストを抑制するための手法について、現時点で実装が可能な様々な技術を活用しながら検討を行うことを主眼としている。ここでいう実装可能な技術とは、実際に動作が可能なものを称しており、一般に認知されていない研究的実装レベルにあるようなもの(例えばIPv6トランスレータなど)も含めている。著者が知る限りにおいて、これら様々な技術を実際に個々に検証・確認した上で、相互な組み合わせについて、維持管理コストの抑制という視点から考察していきたい。IPv4ネットワークでは、現在問題となっているグローバルアドレスの枯渇問題を解消するため、ルータによって隠ぺいされたプライベートネットワークが普及している。このネットワークでは、グローバルな接続性を犠牲として、それなりにセキュアな環境が担保されているが、接続性とセキュアという二律背反な事象を両立させるために、ニーズを満たした環境構築にあたっては、ネットワークプロトコル全般について相応の知識が必要とされる。また、プライベートネットワークを構成するノードの設定作業軽減のために、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)サーバなどを設置することが一般的であるが、DHCPを利用したネットワークを構成・稼働させるためには、default gateway、subnetmask、leasetime等の各種パラメータの設定や、アドレスプール情報、スコープ名など、やはりネットワークに関する総括的な知識が必要とされる。これらの設定作業を軽減するために、IPv6の利活用を考えた。また、ネットワークケーブルや情報コンセントなど、物理的インフラストラクチャの抑制のために、IEEE802.11x及びPLC(Powerline Communication Alliance)技術を応用し、ケーブルレス化などによる維持管理コストの低減に加え、一般的にケーブル設備を保有しないホームネットワーク環境などへの適用も加味していく。IPv6では、構成ノードにおける自律構成機能の一つとして、linklocal addressというルータ内のネットワークでのみ有効となるIPv4におけるプライベートアドレスに相当するものが自動生成される。これらのアドレスはDAD(Duplicate Address Detection)によってその一意性が保障される。さらに各ノードはルータからのRA(Router Advertisement)パケットを受け、この情報に含まれるプリフィックス情報と一意のインタフェースIDを用いてグローバルアドレスを生成し、ネットワーク上のグローバルな接続性を確保する。このようにIPv6は対応ルータの設定作業のみで、ほぼ全域に対する透過的なネットワークが構成可能である。さらにPLCターミナルアダプタ機能をノードの電源装置内部に実装することにより、ネットワークインタフェースへの物理結線を不要とするとともに、電源分配装置(テーブルタップ)内に接続された近隣ノード間の通信を行う。電源分配装置内は回路的にも単純な構成であり、変圧器や配線用遮断器など、PLCにおける通信帯域周波を阻害する要素が少ないため、ほぼ理論値の速度が期待できる。また、この電源分配装置内部に、無線LAN機能を実装することによって、各所に配置された電源分配装置間におけるLAN間通信が可能となる。IEEE802.11nなどでは理論値300Mbpsの帯域を有しているため、これらのネットワークシステムは無線・電力線ネットワークではありながら、十分に実用可能な帯域が提供可能といえよう。また、このような機器構成によって、ユーザから見た場合、ノードを電源分配装置に結線するだけの作業でネットワークに参加できるようなイメージとなり、ほぼ家電並みの極めて簡便な操作感が期待できる。このように、IPv6、IEEE802.11x、PLCなどの技術を適材適所に配置・機能させることによって、従前のネットワークシステムで行われてきた設定・管理作業の低減が相応に可能となると思われる。また、ケーブルや情報コンセントなどのインフラストラクチャをノード毎に多数敷設する必要がないことからも、比較的小規模で且つこれらのインフラを有しない事業体やホームネットワークなどへの応用が有効であると考える。 |