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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 7I  情報センシング(1)(UBI)
日時: 2008年7月11日(金) 8:30 - 10:10
部屋: ビューホール(2)
座長: 中島 秀之 (はこだて未来大)

7I-1 (時間: 8:30 - 8:55)
題名プログラム配信によるデータ予測型センシングシステム
著者*藤田 直生 (神戸大学大学院工学研究科), 義久 智樹 (大阪大学サイバーメディアセンター), 塚本 昌彦 (神戸大学大学院工学研究科)
Pagepp. 1724 - 1731
Keyword放送型センシング, 無線センサネットワーク, プログラム配信
Abstract 近年,気象観測,地形観測や安全安心確保のため,温度,加速度やカメラといったセンサが情報ネットワークを形成し,データを収集するセンサネットワークに対する注目が高まっている.センサネットワークでは,ネットワークを形成するセンサを備えた小型の計算機をセンサノードと呼び,これらが互いに通信しすることで,センシング情報を収集する. 例えば,気象観測システムや河川モニタリングシステム,構造ヘルスモニタリング,ホームセキュリティーがある.これらほとんどの応用例では,センサデータを処理するため,シンクノードやコーディネータと呼ばれる特定のノードでセンサデータを収集している.各センサノードがセンサデータをシンクノードに送信するため,シンクノード付近の通信量が多くなる.このため,センサデータを効率よく収集するさまざまな手法が提案されている.しかし,各センサノードが通信経路を確保してセンサネットワークのみを経由してセンサデータを収集するものがほとんどであり,非常に多数のセンサが存在する場合,通信量が多くなり,データの収集に時間がかかるといった問題がある.今後,センサの数は爆発的に増加する可能性があり,多数のセンサが存在する状況で効率的にセンサデータを収集する方式が求められている. 本研究では,センサデータを推測し,予測プログラムを放送により配信を行い,実際の時系列センサデータから予測プログラムに基づきデータを送信するデータ収集方式である.一部のセンサノードのみ予測プログラムに基づくセンサデータを送信するため,通信量を削減でき,データ収集時間の短縮につながる.一般に,幾つかのセンサノードのセンサデータは近い特性をもっており,高密度センシングでは近いセンサノード,多種センシングでは同じ種類のセンサノードのセンサデータが近い特性になる.配信するセンサデータの予測プログラムににより,特性の似たセンサノードに対して従来の瞬間のセンサデータの処理ではなく時系列データにおいて評価を行うプログラム配信できる.例えば,高密度センシングにおいて,ビルに取り付けられた加速度センサが100個存在する場合,風や外部の振動などによる振動は似た特性があると考えられる.しかし,ビルが痛み始めた場合に,特定の場所のみ特性が変わることが考えられる.このような場合,加速度データを100個すべて同時刻に収集することは従来技術ではメモリを多く必要とするなど難しい問題がある.しかし,予測プログラムを配信することで特定の箇所のみの加速度データを抽出することが可能となり,効率よく建物の管理を行うことが可能となる. 本研究では,放送型による予測プログラム配信を行うデータ予測型センシングシステム方式を提案しており,複数のセンサノードに同じ予測プログラムを同時に配信できるため,データ予測プログラムの配信を効率的に行い,センサデータの時系列の評価をセンサノードで行うことにより同時刻による相関関係のある環境のセンシングを行うことが可能となる. センサノードに放送型配信により予測プログラムを送信する場合,センサノードのプログラム実行環境を整える必要がある.そのため,本システムではネットワーク及びセンシング処理を行う基本プログラムと,放送される予測プログラムの2種類のプログラムを実行する環境を構築する.基本プログラムは一定の期間ごとに動作し,予測プログラムからはセンサ情報取得のためのインタフェースが提供されるシステムを構築した.これにより予測プログラムは通常のマイコンプログラムと同じ環境で開発することが可能となる.また,基本プログラムと予測プログラムが同じプログラム空間内で実行されていることにより,予測評価処理以外の動作プログラムなども可能となり,大量のコンピュータを用いたユビキタスコンピューティング環境の構築が可能となり,センシングと同時にインタラクションなどを提供することができるユビキタスセンシングシステムが実現できる. 本研究では,放送型による予測プログラム配信を行うデータ予測型センシングシステムの構築を行った.本システムにより,予測プログラムを放送することで,センサノードの動作を変更することが可能となり,センサ情報の時系列データ処理などを付加することで,通信帯域の改善や大量ノードの同時刻センシングなどを実現できるシステムを提案する.

7I-2 (時間: 8:55 - 9:20)
題名センサー情報ASPサービスシステムの開発
著者*松浦 芳樹, 川口 貴正, 五十嵐 悠一, 森井 陽子 (株式会社 日立製作所 システム開発研究所)
Pagepp. 1732 - 1737
Keywordセンサーネット, センサーネットゲートウェイ, センサー情報ASPサーバ
Abstract近年,無線デバイスの小型・省電力化技術が発展し,これまでは継続的かつ即時的に把握できなかった身の回りの物や環境や人の,動き,温度・湿度,血圧・体重などのセンサー情報をネットワーク経由で収集することが可能になりつつある.このようなセンサー機器を家庭やオフィスに設置することで,生活習慣病改善,在宅介護支援,児童・高齢者見守り,防犯・防災,省エネなどのサービスに役立てることが期待されている.  センサーネットを活用したサービスをサービス事業者が開始するには,サービス事業者が個別にセンサー情報を取得・提供するためのシステムを構築していた.そのため,サービス事業者が負担するセンサー設置,システム開発,サーバ運用等のコストが大きく,センサーネットを気軽に利用することは困難な状況にあった.また,家庭やオフィス内でセンサーネットを利用する場合に,PCに一旦センサー情報を転送し,PCからインターネット経由でサーバに転送する方法がとられている.このような方法では,サービス利用ユーザはPCや専用ソフトによる設定や操作が必要になるため,児童や高齢者,普段PCを利用しない主婦層などセンサーネット活用が期待されているユーザ層にとって気軽に利用できないという状況にあった.  このような状況を鑑みて,日立製作所では,テクノロジー・アライアンス・グループと共同で,サービス事業者がセンサーネットサービスにおけるシステム開発およびWebサービス運営の一部をアウトソーシングできることを目指したセンサー情報ASPサービスシステムを開発した.このシステムは,PC不要で直接インターネットに接続してセンサー機器の情報を収集できる小型のセンサーネットゲートウェイと,センサー情報を一元管理してサービス事業者に提供するセンサー情報ASPサーバから構成される.センサーネットゲートウェイは家庭内のブロードバンド環境に接続することで,自動的にセンサー情報ASPサーバにセンサー情報を送信する.センサー情報ASPサーバでは,汎用的なWeb APIによりサービス事業者にセンサー情報を提供する.  現在,本システムを用いて,生活習慣病予防サービスの適用を目指している.特に,2008年4月施行の「特定保健指導」義務化を視野に,メタボリック健康指導とネットワーク健康機器とを連携させてサービスを行うシステムの開発を健康管理サービス事業者と進めている.その過程で,本システムの有効性および,技術面やサービス面での課題について検討した.

7I-3 (時間: 9:20 - 9:45)
題名省資源性を考慮したセンサセレクション手法
著者*中村 善行 (早稲田大学), 鄭 顕志 (早稲田大学/国立情報学研究所), 深澤 良彰 (早稲田大学), 本位田 真一 (東京大学/国立情報学研究所)
Pagepp. 1738 - 1745
KeywordSensor Network, Object Tracking, Sensor Selection
Abstract無線センサネットワークは,現実世界の情報を取得できるセンサにより構築される無線アドホックネットワークであり,今後我々の生活補助や防犯などの多分野での応用が期待されている.現在のセンサでは,観測する際に様々な要因でノイズが発生し,観測結果に誤差が含まれる.そのため,複数のセンサを用いて対象を観測することで,観測精度を向上させることが必要である.しかし,センサに搭載できる計算資源(CPU,メモリ)は非常に乏しく,バッテリ駆動のため使用可能な電力も乏しい.そのため,観測に有効な必要最小限のセンサのみを用いて観測を行うことが有効である.不要なセンサは待機状態にすることで消費電力を節約したり,他のアプリケーションのためのタスクを割り当てたりすることが可能となり,無線センサネットワークの寿命を延ばすことができる.しかし,センサの持つ計算資源は非常に乏しいため,センサにて膨大な処理量の処理を行うことは現実的ではない.そこで,本研究では評価のための処理量を抑えつつ,対象の観測に有効なセンサを選択する手法を提案する. 観測に有効なセンサを選択するためには,センサの有効性を評価する指標が必要である. センサの評価指標を提案している研究として,Spread-based heuristic[V.Sadaphalら,2006]が挙げられる.Spread-based heuristicではレンジセンサ(対象との距離を計測するセンサ)を使用する場合を想定しており,複数のレンジセンサを用いて対象の位置を推定する際に用いる評価指標を提案している.しかし,提案された指標を全センサの組み合わせに対して評価を行う場合には処理量が膨大となり,センサの計算資源の乏しさと合わせて計算時間が膨大になるという問題が発生する.この問題への対策として,Spread-based heuristicでは各時間に全てのセンサの組み合わせを選択しなおすのではなく,前回使用したセンサのうち1つだけを再選択することで新たな組み合わせとする手法を提案している.これによりセンサの有効性を評価する際の計算量をO(N^n)からO(N)に低減することが出来る.なお,Nは選択候補となる全てのセンサ数,nは選択するセンサ数を表している.しかし,この手法では再選択されなかったセンサは過去の対象の位置によって決定されているため,対象が移動する場合には観測に有効なセンサでは無くなっている可能性が高い.そのため,Spread-based heuristicでは処理量を低減している反面,観測の精度を低下させてしまっている. そこで本論文では処理量と観測精度の適切なトレードオフを取れるセンサセレクション手法を提案する.一般的に,観測対象とセンサの距離が離れるほど誤差が大きくなるため,観測には対象周辺のセンサが有効である.そこで本手法では,観測対象の移動履歴から現在の位置を予測し,観測対象周辺の一定範囲に存在するセンサから選択を行う.つまり,選択候補となるセンサ母集団の数を減らし,有効性評価の際にかかる処理量を低減する.なお,評価指標には既存手法であるSpread-based heuristicと同様のものを使用する.このとき,限定する範囲の大きさにより観測精度と処理量のトレードオフを調整することができると考えられる.範囲が広過ぎた場合,範囲内に存在するセンサ数が多く,評価を行う際の処理量が増加する.逆に範囲が狭過ぎる場合,範囲内に存在するセンサ数が少なく,有効な組み合わせが選択できないため精度が低下する.そこで,適切な範囲の大きさに影響を与えるパラメータを検討し,定式化を行う.この式に基づいて範囲を動的に調整することで,対象の移動モデルや移動速度に応じて適切な範囲を用いることができる. 本手法の評価では,シミュレータ(TOSSIM[P.Levisら,2003])を用いてトラッキングアプリケーションを実装し,観測精度と処理量,消費電力の評価を行う.観測精度の評価指標には,観測対象の実際の位置と観測結果から推定した位置との誤差を用いる.処理量の評価指標には,センサセレクションの際にかかる処理時間を用い,実機のセンサを使用して処理時間を計る.消費電力の評価では,シミュレータとしてPowerTOSSIM[V.Shnayderら,2004]を用いて,各センサノードの平均消費電力量を比較する.シミュレーションにより,既存手法に比べ精度の向上,処理量と消費電力の低減が出来ていることを確認した.本手法を用いることで,選択する際の処理量を低減し,対象の観測に適したセンサの組み合わせを選択することができる.

7I-4 (時間: 9:45 - 10:10)
題名センシングデータの意味的解釈に基づく分散センサ情報管理アーキテクチャ
著者*川上 朋也, Ly Bich Lam Ngoc, 竹内 亨, 寺西 裕一 (大阪大学大学院情報科学研究科), 春本 要 (大阪大学大学院工学研究科), 西尾 章治郎 (大阪大学大学院情報科学研究科)
Pagepp. 1746 - 1753
Keywordセンシングデータ, P2P, 分散処理, セマンティックウェブ, 演繹処理
Abstractユビキタス環境ではセンシングデータを共有し,ユーザの状況に応じて内容を変化させる「コンテキストアウェアサービス」の実現が期待できる.このとき,膨大な数のセンサ端末が存在することが予想されるため,端末から情報を直接取得することで高いスケーラビリティを維持するP2P モデルが有効である.しかし,計画的にではなく自律的にセンサ端末が配置される分散環境を想定する場合,設置状況を事前に把握できないため,指定する種類のセンサが適切な地域に存在するとは限らない.そのため,必要なセンサ情報を取得できず,ユーザの要求に応答できないという問題が発生する.また,短期間に同様の取得要求が繰り返された場合においても,想定する分散環境ではそのたびに周辺端末への問い合わせなどが行われ,それらの冗長な処理が端末やネットワークに不要な負荷をかける問題が考えられる.本稿ではまず,指定するセンサが存在せず状況判断が行えない問題に対して,周辺に存在する他のセンサ端末から情報を収集して意味的に把握し,演繹処理により状況判断の結果を導出するセンサ情報管理アーキテクチャを提案する.次に,同様の要求に対する冗長な処理の問題に対しては,要求に対する処理結果を共有するための仮想センサを設置し,過去の結果を再利用することで処理の実行を抑制する手法を提案する.本稿で提案するアーキテクチャを実装し,仮想センサによって負荷を削減する手法の有効性をシミュレーションにより評価した.本シミュレーション結果により,高い正答率を維持しつつトラヒックの発生を大きく抑制できることを確認した.