題名 | プローブデータを用いたリアルタイム推定補完技術の評価 |
著者 | *蛭田 智昭, 熊谷 正俊 (株式会社日立製作所 日立研究所), 鈴木 研二 (株式会社日立製作所 CIS事業部 ), 横田 孝義 (株式会社日立製作所 日立研究所) |
Page | pp. 1616 - 1620 |
Keyword | ITS, ナビゲーションシステム, プローブカー, 欠損, 補完 |
Abstract | 近年、プローブ交通情報システムが国内外問わず注目されている。このシステムは、車両自身が交通情報収集のセンサとして振舞い、プローブカーと呼ばれる車両が走行した位置情報、時刻情報などのデータを収集するものである。収集されたデータは交通情報センタにアップリンクされ、交通情報に変換され、提供される。このシステムの利点は、路上センサなどのインフラの必要が無く、低コストで広範囲の交通情報を取得できる点にある。
しかしながら、プローブデータを路上センサと同様に扱う場合、データの補完手段が必要になる。なぜならセンサであるプローブカーの走行経路は確率的なものであり、その情報品質は路上センサで収集される連続的な情報とは異なり、空間的・時間的に大きな欠損を含み得るためである。例えば、プローブカーの台数を全国で10万台とした場合、プローブデータが取得できる時間密度は、道路リンク当たり1時間に平均1回程度である。このプローブデータを現行の路上センサと同等の5分周期のデータとして利用する場合、同時刻でのデータのカバー率(全リンク数に対するプローブデータを収集できたリンク数の割合)は全体の1割程度である。よって路上センサと同様に扱う場合、欠損しているデータの補完手段が必要になる。補完手段の一般的な手法として、現況のプローブデータを一定時間保持する、つまり、補完データとして、直近に提供された過去のプローブデータを提供する手法(前置補完技術)がある。この方法は安定した補完情報を提供することはできるが、補完情報の精度と補完できるデータ数は、プローブデータのカバー率に依存する。プローブデータのカバー率が高い場合、過去のプローブデータを保持する時間を短くしても、多くの欠損データに精度の高い補完情報を提供することができる。しかし、プローブデータのカバー率が低い場合、過去のプローブデータを保持する時間を長くすることで、多くの欠損データに補完情報を提供できるが、その精度は低いものになる。なぜなら、過去に提供されたプローブデータで欠損データを補完しているため、現況の交通状況を反映できない可能性があるためである。
この解決策として、特徴空間を用いたプローブデータのリアルタイム推定補完技術が報告されている。これは、道路間の混雑の相関を、特徴空間と呼ばれるモデルで表現し、情報の得られている道路の状況から、他の道路の状況を推定することで、欠損しているデータを補完する技術である。道路間の相関現象は、例えば、幹線道路と駅前の道路が同時に混雑することなどに見られる。この道路リンク間の相関パターンを基底ベクトルと言う。さらに基底ベクトルの集合を特徴空間という。リンク間の相関パターンを抽出するためには、蓄積した過去のプローブデータを用いる。
このリアルタイム推定補完技術では、プローブデータのカバー率が5%以上であれば、安定した推定補完を行うことを筆者らは報告済みである。さらに、蓄積した過去データの欠損率が低い場合でも、過去データの蓄積期間を延長することで、十分な特徴空間を生成できるという特徴空間の性質を報告した。ここの特徴空間が十分であるとは、抽出した道路リンク間の相関パターンが、実際の道路間の混雑の相関を十分に表すことができる状況をいう。
しかし、プローブデータのカバー率と、その欠損データを補う前置補完技術の精度及びリアルタイム推定補完技術の精度の関係は明らかにされていない。このため、さまざまなプローブデータのカバー率に対して、欠損データを補完するには、どの方法が適しているのかを決めることが困難であった。
そこで本報告では、プローブデータのカバー率と前置補完技術の精度、リアルタイム推定補完技術の精度の関係は明らかにし、プローブデータのカバー率に応じた適切な補完技術を明らかにする。 |