題名 | DHTによる高信頼アドホックルーティングプロトコルの提案 |
著者 | *鳴海 寛之 (公立はこだて未来大学大学院), 高橋 修 (公立はこだて未来大学) |
Page | pp. 1386 - 1393 |
Keyword | アドホックルーティング, DHT, オーバレイルーティング, 信頼性 |
Abstract | 近年,無線通信技術の発達と移動無先端末(ノード)の小型化・高性能化に伴い,モバイルアドホックネットワーク(MANET)に関する研究が活発に行われている.MANETは,基地局などの既存インフラに依存せずにノードが即席で形成する自立分散型のネットワークである.MANETではマルチホップ通信と呼ばれる通信方式を採用しており,通信経路上に位置するノード(中継ノード)がデータを転送することによってエンド−エンド間の通信が実現される.MANETにおけるルーティングプロトコルの代表的なものとして,リアクティブ型と呼ばれるプロトコルがある.本研究では基礎シミュレーション実験を通して,通信密度およびノード移動頻度の高いネットワーク環境ではリアクティブ型プロトコルの経路構築特性がデータ転送に悪影響を及ぼし,データ到達率が低下するという結果を得た.この結果をさらに分析することで,ノード密度の高い環境においてエンド-エンド間の通信経路が長経路となった場合,その経路の構築を行うために周囲のノードが一斉に制御メッセージを送信することによって大規模な混信状態が発生してしまい,その結果経路構築に失敗し送信元ノードがデータパケットを送信キューからドロップしてしまうことが,データ到達率の低下を招く主要因であるという結論を得た.同様の理由によって,従来のリアクティブ型のルーティングプロトコルは,高移動頻度のネットワークにおいて複数のノードが同時に通信を行うと,データ到達率が著しく低下する.このように,リアクティブ型プロトコルによる長経路通信はネットワークに大きな負荷を与えてしまう.
そこで本研究では,長経路通信を複数の短経路通信に分割するというアプローチによって,従来よりも高密度・高移動頻度のネットワークにおいて高いデータ到達率を提供する,新たなアドホックルーティングプロトコルの実現について検討する.
長経路分割を実現するために,本研究ではDHT(Distributed Hash Table)と呼ばれる技術を用いる.DHTは,効率的なデータ分散やスケーラビリティを提供するデータおよびノードの探索手法の総称であり,Pure-P2Pネットワークを構築する際に用いられる.DHTは,物理ネットワーク上にオーバレイネットワークを構築し,オーバレイネットワーク上に一様に分散配置されたノードが協調的に動作することによって任意のノード間の通信を実現する.このDHTのオーバレイルーティングの特性を応用することによって,MANETにおける長経路通信を複数の短経路通信に分割する.これによって,経路構築やデータパケットの中継などといった,1つの通信に関わるノード数を少なくでき,高いデータ到達率を実現することが可能となる.同時に,経路構築時にネットワークに与える負荷を最小限に抑えることもでき,複数のノードの同時通信も可能となる.ただし,DHTはインターネットでの利用を前提として設計されたアルゴリズムであり,MANETの特性でもあるノード移動などについては考慮されていない.そこで本研究では,オーバレイネットワーク上で近傍性を実現するRLM(Random Landmarking)と呼ばれる動的クラスタリング手法をさらに改良することでノード移動への信頼性を高め,ノード移動頻度の高いネットワークにも対応できるようにする.
本研究では,DHTと動的クラスタリングによる新たなアドホックルーティングアルゴリズムを検討方式として提案する.また,ネットワークシミュレータを用いて提案プロトコルと従来のルーティングプロトコルを比較評価し,本提案方式の有効性について評価する. |