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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 4I  ユビキタスプラットフォーム(1)(UBI)
日時: 2008年7月10日(木) 8:30 - 10:10
部屋: ビューホール(2)
座長: 重野 寛 (慶大)

4I-1 (時間: 8:30 - 8:55)
題名音声を入出力とするユビキタスコンピューティング向けマイコンモジュールの設計と実装
著者*武田 淳佑, 竹川 佳成, 寺田 努, 塚本 昌彦 (神戸大学), 細見 心一, 西尾 章治郎 (大阪大学)
Pagepp. 959 - 966
Keyword音声, ユビキタスデバイス, 入出力
Abstract音は,感情伝達やコミュニケーションを高める楽器演奏や,心地よい場の雰囲気を作り出すBGMといった日常生活の豊かさだけでなく,誘導・警告・宣伝・案内など便利で安心・安全な社会を形成するための重要な役割を担っている.また,不特定多数の人々に瞬時に情報を伝達できる便利さをもつ一方,騒音や雑音といった社会問題の一つとなっている.近年,この問題を解決するために,近年,音サイン(生活空間,商空間,公共空間,イベント空間などさまざまな場や空間において場所や方向などの情報を伝達する音のこと),BGM,環境音,反響音などの音要素を考慮し,快適性と機能性をあわせもつ機能美に優れた音の利用を目指す音環境デザインが提唱され,さまざまな取り組みがなされている.しかし,音環境デザインの専門家が不足している,音環境デザインの知識が体系化されていない,さまざまな音環境デザインの要求を満たす多彩な音サイン入出力制御機能をもつデバイスや,その動作制御を容易に行える開発環境が整っていない等の理由により,音環境デザインを考慮した空間設計は難しい.また,これまでの音環境デザインの取り組みは,専用のシステムで実現しており,汎用性や機能性に乏しく,効果音やスピーカの位置を工夫することで機能性と快適性を高めているだけであり,動的に変化するユーザの状況や環境を考慮されていない.これらを考慮することでさらに優れた音環境を提供できると考えられる.  一方,近年,情報エレクトロニクス技術の進展によるコンピュータの小型化・高性能化・高機能化に伴いユビキタスコンピューティング環境が実現しつつある.ユビキタスコンピューティング技術は柔軟な音環境デザインを実現する有効な手段の1つとして注目されているが,既存のユビキタスデバイスは,センサやアクチュエータを動作させる機構や,他のユビキタスデバイスと連携してサービスを提供するなど汎用性に優れ,ユーザの状況や周囲の環境を認識できる一方,音に関してはブザーを一定時間鳴らすといった単純な機能しかもたず,時々刻々変化するユーザの状況や環境に適した音のリズム・音色・音量などをコントロールするといった音環境デザインの要求に対し,柔軟に対応することが難しい. そこで,本研究では,高度な音響解析および生成機能をもち,汎用ユビキタスデバイスと協調することで,時々刻々変化するユーザの状況や環境に適した音サインを生成するといった音環境デザインの要求に対し柔軟に対応できるようにさせる音に特化した小型デバイスであるサウンドチップの構築を目的とする. サウンドチップは,ユビキタスデバイスやPCなどのデバイスと協調して動作するための通信ポートを備え,コマンドで動作する.また,マイクやスピーカを搭載し,マイクで収録した音声の保存,保存した音声の編集,編集した音声をスピーカで再生できる.さらに,録音時間や録音タイミング,再生時間や再生タイミング,エフェクトをかける時間を細かく設定でき,多種多様なエフェクト機能,周囲の環境音を考慮して動的に出力音を変更するといった,音環境デザインを構築する上で必要なコマンドをもつ.このように,サウンドチップはコマンドによって駆動するため,汎用ユビキタスデバイスはサウンドチップのコントロールを容易に行え,豊富なコマンドによって逐次変化するユーザの状況や環境に適した音サインを生成することができる.

4I-2 (時間: 8:55 - 9:20)
題名時区間関係表現に基づいたスマートオブジェクトサービス構築フレームワーク
著者*米澤 拓郎, 中澤 仁, 榊原 寛 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科), 國頭 吾郎, 永田 智大 (NTTドコモ総合研究所), 徳田 英幸 (慶應義塾大学環境情報学部)
Pagepp. 967 - 974
Keywordスマートオブジェクト, ユビキタスコンピューティング, エンドユーザプログラミング
Abstract近年,複数のセンサが搭載され,小型化・高機能化された無線センサノードをモノに取り付け,モノ及びモノの周辺の環境情報を利用したサービス(以下スマートオブジェクトサービス)の研究開発が盛んである.例えば,センサノードをコップに取り付け,飲み物の温度を感知し冷める前にユーザに通知する MediaCupや, センサノードを身の周りのものに取り付け,忘れ物があればユーザに通知する SPECsなどが挙げられる.我々の日常生活はモノとのインタラクションに溢れている.ユビキタスコンピューティングの目的である情報技術を利用したあらゆる場面での生活支援を実現するために,スマートオブジェクトサービスの重要性は高いと考えられる. 家庭内でスマートオブジェクトサービスを実現するためには,次の2点を考慮する必要がある.第1に,個々人は異なる数百のモノを所有しており,それらを対象とするサービスを構築するためには,各個人個人が自らモノにセンサノードを取り付け,環境情報を取得・処理可能なスマートオブジェクトとする必要がある.第2に,個々人の生活スタイルが様々であるため,求められるサービスも多種多様となる点である.この問題を解決するためには,家庭のユーザの生活スタイルに応じたサービスを,そのユーザ自身が容易に構築できる環境が必要となる. 我々は上述した2つの問題点を解決するために,今までセンサノードとモノの意味的な関連づけ手法及び,サービスを記述するために必要となるイベントモデリング手法(時区間関係表現に基く)を提案してきた.本稿ではイベントの対となるアクションの記述を加えることでサービス構築の必要条件を満たすとともに,それぞれのフェーズにおける作業をユーザがシームレスに行えるインタフェースを試作した.本研究はこれらの要素を基盤とし,エンドユーザ主体のスマートオブジェクトサービス構築フレームワークの構築を目指す.

4I-3 (時間: 9:20 - 9:45)
題名コンテキストアウェアサービスのための分散複合イベント処理
著者*佐藤 正, 磯山 和彦, 吉田 万貴子 (日本電気株式会社)
Pagepp. 975 - 981
Keyword複合イベント処理, CEP, イベントプロセッシング, 負荷分散, ルールエンジン
Abstract本稿では,RFID,センサから発生する膨大なイベントからアプリケーションが要求するイベントを抽出,配信するプラットフォームとしてスケーラブルコンテキストプラットフォーム(SCTXPF)を提案する. SCTXPFはイベントのフィルタ機能や関係する複数のイベントをまとめて複合イベントとしてアプリケーションに提供する機能を持つ.このような処理はComplex Event Processing(CEP)と呼ばれている. 従来から,SASE,GEMなどCEPに関する研究がなされており,CEPを実現するための方式が提案されている.また,分散pub/subの領域では,SIENAが複数のネットワークノード間でCEPを実行する方式を提案している.システム全体としてのパフォーマンス向上のために与えられた計算リソース間の適切な負荷分散は重要な要素であるが,これらの方式では複数の計算ノードに対する処理のスケーラビリティ,負荷分散については考えられていないことが課題としてあげられる. 提案するSCTXPFは,アプリケーション(App)により要求するイベントの条件(ルール)が登録され,その条件に合致するイベントが発生すると,それをAppに通知する.SCTXPFでは,イベントプロセッサ(EP)を並列に配置して,CEPを分散的に実行する.前段のディスパッチャ(Disp)がイベントをそのイベントを必要とするEPにのみ転送することで,EPにおける不要なイベントの処理負荷を低減する. EPへのルールの振り分け方によって,ディスパッチャが同一のイベントをどれだけのEPに通知するかが決まる.ディスパッチャが同一のイベントを複数のEPに送ることは,ディスパッチャにおける処理負荷の増大や,同じイベントを複数のEPが処理することによる計算リソースの浪費につながる.ラウンドロビンのようにルールの記述内容を考慮しない方法でEPにルールを分配する場合,EPに設定されるルール数が均一という意味で負荷分散を図れるが,ディスパッチャが同一のイベントをどれだけのEPに通知するかというイベント処理の効率化という観点では,最適とはいえない. そこで,我々は以下に示す2の制約の基で,1を実現するルール分配アルゴリズムを提案する.提案アルゴリズムはルールに記述されるイベント属性を基にルール分配することを特徴としている. 1.同じイベントを要求するEPを少なくする. 2.各EPのイベント処理負荷のばらつきを一定以内に収める. また,システム全体のスループットは,EP間の負荷バランスだけでなく,EPとディスパッチャの計算リソースの使用バランスにも依存する.そこでSCTXPFはアプリケーションからルールが登録された時点で,それらのルールを基にCEPとディスパッチャに振り分ける計算リソースの比率を決定する. ルール分配アルゴリズムでは,与えられた計算リソースに対して,CEP数とディスパッチャ数の各組み合わせにおける負荷のバランスを検証し,システムスループットを最大とする構成を,イベント当たりのイベント送受信処理,イベントマッチング処理の実測値を用いて決定する方式を提案する. 評価として,まず,EPの並列分散化効果を検証するために,スループットを計測する.アプリケーションが1000個のルールを設定し,各EPにはPentiumM 1GHz,256MB RAMのマシンを使用するものとする.EPを1台から5台とすることでスループットが約2300イベント/秒から約14000イベント/秒へと約6.23倍となり,拡張可能なアーキテクチャであることが確認できた.これは,複数のEPで並列にCEPを実行していることに加えて,各EPに設定されるルールが約1/5になり,EPの処理負荷が低減しているためである. 次に,我々は理論的に求められたCEPとディスパッチャのリソース割り当ての妥当性を実機により検証する.アプリケーションがルールを1000個登録し,タグIDとリーダIDは,それぞれ100個のIDからランダムに選択するものとする.計算リソースとして6台のマシンを仮定すると,CEP数3,Disp数3が導出された.導出した配置と,そこからCEPとディスパッチャを1台入れ替えた配置におけるCPU使用率を計測し,それぞれの構成における分散を求めたところ,導出された配置で最もCPU使用率の分散が小さくなり,システムスループット最大化を実現できることを確認した.

4I-4 (時間: 9:45 - 10:10)
題名City Compiler: 情報システムと実空間の統合的な設計/開発ツールのプロトタイプ開発
著者*三浦 稔隆 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科), 中西 泰人 (慶應義塾大学環境情報学部)
Pagepp. 982 - 990
Keywordソフトウェア開発, 空間設計, 統合開発環境, デジタルアース, シミュレーション
Abstract近年、エクスペリエンス・デザイン(Experience Design)と呼ばれる設計の領域が生まれつつある。エクスペリエンス・デザインは表層的な形状としてのデザインではなく、情報デザインの分野から空間、プロダクトに至るまで、また、サービスを含めたすべてを対象とした知識デザインの応用である。そうした設計対象の例としては、街中や公共空間に設置された大型ディスプレイを用いた広告手法であるデジタルサイネージや、建築空間と情報システムを統合的に設計した図書館などが挙げられる。 こうした例を設計するにあたっては、情報システムの設計と空間やプロダクトの設計を一体的に同時並行で行うことが望ましいが、現在は別々の専門家が異なるツールを用いて設計を行いながら、共同作業を行うことが多い。そのため共同作業におけるコミュニケーションの量が少なくなりがちである。そうした場合には、設置された端末内で動作するシステムのUIが使いづらいためにその端末が使われず端末周辺の空間がデッドスペースになるといったことや、端末を発見しづらい空間設計のためにシステムが使われない、といったような異なる領域のデザインの連携が取れていない状況が生じてしまうという問題点がある。 こうした問題点を解決するためには、これまでは異なる領域であると捉えられていた設計領域を統合的にかつ往来的に設計・開発できるツールと設計手法が求められる。 そこで本研究では、情報システムの設計と空間の設計を融合したエクスペリエンス・デザインを対象として、情報システムと実空間を統合的に設計/開発するためのツールである「City Compiler(CC)」の提案を行う。 この研究目的を実現するにあたり、本研究において必要と考えた機能は以下の通りである。  ・情報システム開発機能  ・実空間設計機能  ・多様なスケールのサポート(ソフトウェアスケールから空間スケールまで)  ・シミュレーション機能(システムが空間で動く様子の可視化)  ・情報システム開発と空間設計をつなぐためのモジュール群(ソースコード内で利用できる机、etc.) これらの機能を満たすため、我々はCCを以下3つのツールの組み合わせによって実現しようと考えている。  1.統合開発環境  2.デジタルアース  3.再利用可能なライブラリ群 1は情報システム開発機能を備え、ソースコードの記述・コンパイル・デバッグを担当する。 2はズームイン/アウトを用いた多様なスケールのサポートに加えて、実空間設計機能とシミュレーション機能を備える。 具体的には、図面の読み込みや、読み込んだ図面からの3Dモデルの再現、時間単位による情報システムや空間のシミュレーションなどである。 3は、1と2双方から利用可能なツールであり、情報システムと実空間の統合的な設計/開発に必要と思われる様々なオブジェクトが再利用可能な形で定義されている。例えば、机やディスプレイ、プロジェクタなどである。これらを統合開発環境から利用する際にはnew Desk()やnew Projector()と言ったクラス形式で呼び出し、デジタルアースから利用する場合は3Dモデルとして提供される机やプロジェクタをデジタルアース上に配置していく。 CCの利用例として、デジタルサイネージにおける情報システム的手法と空間設計的手法の比較・検討が挙げられる。例えば、デジタルサイネージにおいて商品の販売促進を行いたい場合、その目的達成は情報システムと実空間双方から可能である。つまり、「ディスプレイの前を歩く人の嗜好に合わせて、表示内容を調整するように情報システムを実装すること」と「商品が目立つように周囲の空間を再設計する」といった具合である。  通常のツールでこうした比較・検討することは複雑な作業を伴うが、CCではこうした設計手法を支援すべく、以下のような作業プロセスを想定している。まず、上記のような情報システムが動作する空間は、デジタルアースに対応する図面を読み込むことで、デジタルアース上に3Dモデルとして再現される。情報システムは上述の統合開発環境にて記述し、記述する際には、システムのソースコードに加えて、上述のライブラリ群から適切なオブジェクトを利用しながら(例:new Display()やnew Movie())、ディスプレイや再生される動画とシステムを紐づけて記述していく。これをコンパイル・実行すると、デジタルアース上の3Dモデルによって再現された空間内に動作するシステムの様子が表示される。システムの動作を変更したい場合は統合開発環境内のソースコードを変更し、空間を変更したい場合は、図面を書き直すか、デジタルアース上でGUIを用いてディスプレイのサイズや空間のレイアウトを変更する。 今回は、こうした構想中の機能群の一部について、Java言語を用いて実装したCity Compiler のプロトタイプ、およびその考察について述べる。