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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 4E  アドホックネットワーク(1)(MBL)
日時: 2008年7月10日(木) 8:30 - 10:10
部屋: コスモ(1)
座長: 河口 信夫 (名大)

4E-1 (時間: 8:30 - 8:55)
題名RSSIを用いてQoS制御を行う指向性メディアアクセス制御について
著者*渡辺 正浩 (ATR適応コミュニケーション研究所), 小花 貞夫 ((株)国際電気通信基礎技術研究所 ATR適応コミュニケーション研究所), 渡辺 尚 (静岡大学創造科学技術大学院)
Pagepp. 872 - 875
Keywordアドホックネットワーク, アクセス制御, 無線・移動体, センサーネットワーク, ユビキタス情報処理
Abstractスマートアンテナを用いたアドホック無線装置は,空間分割多重効果,通信距離の延伸化,総合スループットの向上等が期待できる.そこで,実際のアプリケーションに向けて,アンテナの小型化や無線モジュールの省電力化を図っている.指向性MAC(Media Access Control)プロトコルについては,コンパクトなサイズで実装を可能とするために,OS (Operating System)を用いずに,小型マイコン上のプログラムにて無線通信で特有な割り込み等のスケジュール管理を行うものとする.また,MAC層のみでルーティングを行うこととし,指向性ビームを用いた周辺端末方向推定とルーティング情報の交換や,RSSI(Received Signal Strength Indicator)の値とホップ数を考慮したQos(Quality of Services)制御を行うマルチホップ通信を実現する.

4E-2 (時間: 8:55 - 9:20)
題名指向性アンテナを使用したアドホックネットワークのルーチングについて
著者*小松 裕也, 萬代 雅希, 渡辺 尚 (静岡大学情報学部)
Pagepp. 876 - 883
Keyword指向性アンテナ, アドホックネットワーク, ルーチング
Abstract近年,インターネットの普及により光ファイバなどを通じて,世界中でさまざまな情報のやり取りが行われている.また,無線技術の進歩により,無線通信機能を備えたノートPC,携帯電話,PDA (Personal Digital Assistants)に代表される携帯端末が急速に普及している.従来は自宅や会社など限られた場所で利用されてきた無線LANも,ホットスポットのような小規模のインターネット環境が空港,駅,ホテルなどに設置され,インターネットの利便性は格段に向上している.現在の無線ネットワーク形態は,基本的に基地局などのインフラストラクチャを利用し,ユーザ管理,チャネル割り当てなどを集中管理することでネットワーク構築を実現している.しかし,地震などの自然災害が発生した場合,基地局がその影響を受けるとネットワーク全体が利用不可能になる可能性がある.  そこで,既存のネットワークインフラストラクチャに依存することなく,複数の無線端末が自律分散制御でネットワークを構築する無線アドホックネットワークが注目されている.各端末に中継機能を備えることで,直接通信可能な端末同士のみでなく,直接通信不可能な端末同士でも他の端末を中継することで通信を可能にする.無線アドホックネットワークは基地局やアクセスポイントが不要となり,地理的にネットワークインフラが設置不可能な場所,災害など緊急時の通信手段,高度道路交通システム (Intelligent Transport System),センサネットワークのようなネットワーク構築の手段としての利用が期待されている.無線アドホックネットワークは,いつでもどこでもネットワークが構成でき,端末は動的にネットワークに加入したり離脱したりし,端末が移動するためにネットワークトポロジが頻繁に変化するという特徴がある.  このような特徴を持つ無線アドホックネットワークを実現するための様々な研究が行われている.特に,無線チャネルを共有し効率良くデータ転送をするためのメディアアクセス制御 (MAC)プロトコルとネットワークトポロジの変化に対応する経路選択を可能とするルーチングプロトコルの研究が盛んに行われている.一般的なMACプロトコルであるIEEE 802.11 DCF(Distributed Coordination Function)は物理層に無指向性アンテナを用いることを前提に設計されている.しかし,無指向性アンテナでは通信を行わない方向まで電波を放射するため近隣端末に干渉し,空間利用効率が悪い.そこで端末が集中した場合の同時通信数を増やすための周波数有効利用のために ,特定の方向にビームを集中させる指向性アンテナを無線アドホックネットワークに使用する研究が進んでいる.指向性アンテナの無線アドホックネットワークへの適用には,空間利用効率の向上のほかに特定の方向に高い利得を持たせることによって通信距離を延長することができるという利点もあるがいくつかの課題がある.その一つが指向性隠れ端末問題である.指向性隠れ端末問題とは,無指向性ビームと指向性ビームのアンテナ利得の違いから発生する問題である.指向性ビームのほうが無指向性ビームよりもアンテナ利得が高い.あるペアが通信中のときその通信を知ることができないために高利得な指向性ビームで送信を始めてしまい,受信中の端末の受信ビームに送信ビームが届いてしまうため通信を壊してしまう問題である.指向性隠れ端末問題は現在行われている通信を壊してしまうためスループット性能に大きな影響が与える.指向性アンテナはMAC層での問題でありMAC層での対処方法が提案されている. 本研究では,指向性隠れ端末問題の対処の新たなアプローチとしてネットワーク層での対処を考える.ネットワーク層での対処とはMAC層で指向性隠れ端末問題が起こらないようなルートを構築するという方式である.指向性隠れ端末問題は直線ルートで発生しやすい問題であるので,リンクをジグザグにさせたルートであるジグザグルートによって対処できると考えられる.そこで,ジグザグルートを構築し,指向性隠れ端末問題に対処し,スループット性能を向上させるような方式を提案することを目的とする.

4E-3 (時間: 9:20 - 9:45)
題名透過型アドホックネットワーク構築ミドルウェアATMOS
著者*藤田 祥, 江崎 浩 (東京大学情報理工学系研究科電子情報学専攻)
Pagepp. 884 - 891
Keywordアドホックネットワーク, ミドルウェア
Abstract- 背景 アドホックネットワークは,従来ネットワークと比較して下位のリンク層への前提条件が緩いネットワークとみなすことが出来る.従来ネットワークでは論理的な単一ネットワーク内の全ノード対でリンク接続性が確立されており、品質の時間変動が少ないことを前提としているが、アドホックネットワークではこの前提は成立しない。このような不完全なリンク層を持つアドホック環境上のノード間でネットワーク接続性をマルチホップ通信で確立するために,トポロジー変化に対応する経路制御手法や冗長なパケット転送の抑制手法などが多く研究され成果を上げてきた. - 問題点 アドホックネットワークを従来ネットワークに統合していくためには両者を統一的な方法で扱えることが望ましい.しかし,設計の前提の相違により様々な不整合が存在する.ここでは例として接続性に関するスコープの不整合を挙げる.従来ネットワークではリンク接続性を持つノードの集合であるリンクスコープと論理的な単一ネットワークに含まれるノードの集合である”グループスコープ”を等価に扱うことが出来る.一方アドホックネットワークではグループスコープ内のノード対のリンク接続性が保障されないため、リンクスコープにはグループスコープより小さくなる可能性がある.DHCPやmDNSなどの多くのプロトコルがグループスコープ,すなわちネットワーク内の全てのノードに向けたつもりでリンクスコープマルチキャストを利用しているが,アドホックネットワークでは送信ノードにリンク接続性があるノードにしか配送出来ない. - 提案手法 本論文ではネットワーク層とリンク層の間に新たにリンク補完層を導入する.リンク補完層はアドホックネットワークで提供されるような不完全なリンク層上でネットワーク接続性を確立し,上位層にはリンクスコープとグループスコープが等しい完全なリンク接続性を提供する.本論文ではリンク補完層への制御インターフェースとアドホック経路制御手法などの実装フレームワークを提供するために設計・実装したミドルウェアATMOSについて説明する.ATMOSはアドホック環境のグループスコープ毎に1つ仮想ネットワークデバイスを作成し,従来のネットワークとアドホックネットワーク間,そして異なるアドホックネットワーク間を分離する.すなわち,物理ネットワークデバイスを利用した場合はリンク補完層を経由せず直接リンク層へアクセスし,仮想ネットワークデバイスを利用した場合はリンク補完層を経由し対応するATMOSの処理によってリンク補完を行う.問題点として挙げたリンクスコープマルチキャストについては,物理ネットワークデバイスから行った場合はリンク接続性のあるノードのみにパケットが配送され,仮想ネットワークデバイスから行った場合はグループスコープに含まれるノードにパケットが配送される.リンクスコープとグループスコープを区別して使い分けることが出来るようになっている.また物理ネットワークデバイスがアドホックネットワークと分離されているので,設定を変更せずに従来ネットワークとアドホックネットワークの間でハンドオーバすることも可能である. - 実装 ATMOSは様々なオペレーティングシステムで利用出来るTAPデバイスを利用する.TAPデバイスを用いて仮想ネットワークデバイスの全てのパケット入出力に介入し,アドホック環境内のルーティングとフォワーディング機能を全てユーザ空間内で実装している.これにより,これまで難しかったリアクティブ型アドホックルーティングプロトコルのオペレーティングシステム非依存な実装が可能になった.プロトタイプ実装はLinuxと各種BSDそしてOSX上で動作することを確認した.実際にリンク補完層で利用するアルゴリズムとして,ユニキャストにはIETFで標準化が進められているDYMOで用いられるものを,マルチキャストには同じくSMFで用いられるものを実装した. 評価 mDNSといった従来のアドホックネットワークでは利用出来なかったプロトコルがATMOS上では利用出来ることを確認する.また従来ネットワークとアドホックネットワークを設定変更なしで移動する中で,mDNSを使ってどのようにサービス提供ノードを発見し通信を開始するのか通信のトレースを用いて確認する.

4E-4 (時間: 9:45 - 10:10)
題名アドホックネットワークにおける受信側TCP主導による送信レート制御手法
著者*小嶋 明寿 (静岡大学大学院工学研究科), 石原 進 (静岡大学創造科学技術大学院)
Pagepp. 892 - 899
Keywordアドホックネットワーク, TCP, 自己干渉, 受信端末による送信レート制御
Abstract本稿ではアドホックネットワークにおける受信側TCP主導の送信レート制御手法を提案する. 一般にアドホックネットワークにおいてTCPは良い性能が得られないことが知られている.TCPの性能が上がらない要因の1つにMAC層における干渉の影響があげられる.アドホックネットワークでは,通信量が増大すると干渉や競合などが頻発し,ネットワークの性能が低下する.また,TCPは送信ウィンドウに余裕がある限り,データセグメントをバースト的に送信する.セグメントがバースト的に送信されると,送信端末付近の通信量が瞬間的に増大する. この干渉の影響を緩和するためにはデータセグメントの送信間隔を適切に空けることが有効である.データセグメントの送信間隔を制御する手法としてElRakabawaらが提案したTCP-AP(Adaptive Pacing),Chenらが提案したTCP-VAR(VARiant control)がある. しかし,これらの手法は送信側TCP,もしくは送信受信双方のTCPがアドホックネットワークに対応していなければならない.今,アドホックネットワークをインターネットに接続た混合ネットワークにおいて,Web等のインターネット上のサービスを利用することを考える.この場合,多くの送信側TCPはインターネット上のサーバにあり,アドホックネットワーク上にあるTCPは受信側となる.このような状況でTCP-AP,TCP-VARを用いた通信を行おうとすると,サーバ側のTCPを変更する必要がある.しかし,インターネット上のサーバがアドホックネットワークに対応していることを期待することは現実的ではない. 混合ネットワークにおいて有線ネットワークとアドホックネットワークの差を吸収するアプローチとして,専用ゲートウェイを設置し,ゲートウェイに制御機能を搭載することが考えられる.しかし,この方法はゲートウェイが複数の通信フローを管理,制御しなくてはならない.このためゲートウェイの負荷が大きくなり,規模性に乏しいという問題がある.また,アドホックネットワークはさまざまな用途,形態をとる.そのため,必ずしも専用のゲートウェイが設置してあるとは限らない.したがって,専用ゲートウェイに依存したTCP通信は汎用性に乏しく,多様性を制限してしまう可能性がある.このことから,専用ゲートウェイを設置することは好ましいとはいえない. そこで,本稿では受信側TCPに送信レート制御機能を持たせる受信側TCP主導の送信レート制御(RSC: Receiver initiated Sending-rate Control)を提案する.アドホックネットワーク対応のTCPの機能をアドホックネットワーク内の端末のみに持たせる.これにより汎用性,規模性を持ったアドホックネットワーク対応のTCP送信制御を目指す.RSCでは受信側TCPで適切な送信レートの予測を行い,予測された送信レートに合わせてACK送信間隔を調節する.受信側のACK送信間隔と送信側のデータ送信間隔を同期させることで受信側主導での送信レート制御を実現させる. 適切な送信レートの予測にはTCP-VARの送信レート予測を受信側TCPに応用する.TCP-VARはスループットを測定し,スループットの分散に基づいて送信レートを決定する. また,ACK送信間隔とデータ送信間隔を同期するためにACKセグメントとデータセグメント対応を1対1にする必要がある.この対応付けを実現させるために,ACKセグメントの広告ウィンドウを用い送信側の輻輳制御を制限し,適切なACK番号のACKを適切なタイミングで送信する.