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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 2B  協調作業(GN)
日時: 2008年7月9日(水) 15:30 - 17:10
部屋: ベガ
座長: 小川 剛史 (東京大学)

2B-1 (時間: 15:30 - 15:55)
題名対面協調作業支援システムの基盤としてのタンジブルユーザインタフェースの評価
著者*水越 悠太 (神奈川工科大学大学院工学研究科), 服部 哲 (神奈川工科大学情報学部), 速水 治夫 (神奈川工科大学大学院工学研究科)
Pagepp. 278 - 284
KeywordCSCW, TUI, 対面協調作業
Abstract1.はじめに 現在,ユーザインタフェースは操作の容易さからGUIが主流となっている.GUIはそれまで主流だったCUIに比べ,コンピュータを直感的に操作することができる.しかし,マウスなどによる操作は間接的なものであり,ユーザとコンピュータの間にははっきりと境界が存在する.また,複数のユーザが同時にコンピュータを操作することはできない. こういった問題を解決することができるユーザインタフェースであるタンジブルユーザインタフェース(TUI: Tangible User Interface)を石井らが提案している.TUIでは情報を物理的な物体と対応させることで,直接操作性を向上させることができる.これによりユーザとコンピュータの間の境界を取り除き,より直感的で自然な操作を行える. 協調作業は人と人が協力して作業をすることであり,効率よく進めるためには円滑なコミュニケーションが重要になる.分散型の協調作業においては協調作業支援システムを介してコミュニケーションが行われるのに対し,対面同期の協調作業では作業参加者同士のコミュニケーションはシステムを介さずに行われるため,システムがこれを支援する必要性は高くない.したがって,協調作業を支援するシステムは作業者同士のコミュニケーションを支援するよりもむしろ妨げないようにするべきである. 2.協調作業支援システム 協調作業支援システムは紙・GUI・TUIといった基盤の上に個々の作業を支援するアプリケーションで構築される.KJ法を例にとると,付箋や模造紙などのアナログなものを基盤とし,その上にKJ法というアプリケーションが乗っていると考えられる.基盤は協調作業を支援するための特別な機能を持っておらず,システム・ユーザ間のインタフェースとしての特性を持っている.基盤が持つ特性により,その上に構築されるアプリケーションは様々な制約を受けるが,その特性を活かすことで効果的な協調作業の支援を行うことができる. GUIを基盤とした場合,作業参加者にマウスやキーボードを使った作業を強いる.このため,作業参加者はシステムの操作に一定の注意を払わなくてはならないため作業参加者同士のコミュニケーションを妨げる可能性がある.これに対し,TUIを基盤として用いた場合は日常的な作業スタイルと異なる作業スタイルを強いることがなく,自然な操作でシステムを扱うことができる.これにより作業参加者は本来の作業に集中することができ,コミュニケーションを妨げにくいと考えられる. 3.試作システム 本研究では協調作業支援システムの基盤としてのTUIの評価を行うために,TUIを取り入れた協調作業環境を試作した.試作したシステムではテキストデータ・画像データを,紙を扱うのに近い操作感で扱えるようにした.情報と対応付けられた紙製のマーカを操作することで,表示されている情報を動かすことができる.マーカの認識と識別にはARToolKitを使用した. 協調作業支援システムの基盤としてのTUIを評価するため,具体的に協調作業を支援するような機能は持たせていない. 4.実験 協調作業の観察とアンケートによって協調作業時のコミュニケーションについて,紙・GUI・TUIの3つの環境で比較した.実験では9部屋のアパートに与えられた条件に従って学生を配置するという課題を用意し3つの環境で作業を行ってもらった.これを3人ひと組のグループ3組で実施し,作業の様子を観察してアンケートを行った. 紙環境でみられたオブジェクトを指示するという動作がTUI環境では観察することができたが,GUI環境においてはほぼ見られなかった.また,紙環境及びTUI環境ではすべての参加者がオブジェクトの操作を行っていたのに対し,GUI環境では一人の参加者がマウスを保持し,専任的にオブジェクトの操作を行っていた. アンケートでは1)協調作業がしやすかった,2)操作が簡単だった,3)自分の思う通りにオブジェクトの操作ができた,4)他の参加者が見ている場所がよく理解できた,5)他の参加者の動作がよく理解できた,6)他の参加者の表情を見ながら作業した,7)十分に協調作業に参加できた,の7項目について5段階で評価を受けた. その結果すべての項目においてTUIの評価はGUIを上回っていた. 5.考察 試作したシステムでは紙を使用した協調作業と近いデータが得られ,GUIを用いた協調作業と比べコミュニケーションを妨げないことが分かった.特にアウェアネスに関するアンケート項目4〜6ではTUI環境とGUI環境の差が顕著であった.このことから,アウェアネスが重要となる協調作業を支援するシステムの基盤としてTUIが有効であると考えられる.

2B-2 (時間: 15:55 - 16:20)
題名自動処理可能なビジュアルメタグループウェア
著者松本 義隆 (神奈川工科大学大学院工学研究科), 服部 哲 (神奈川工科大学情報学部情報メディア学科), *速水 治夫 (神奈川工科大学大学院工学研究科)
Pagepp. 285 - 288
KeywordVMG, グループウェア
Abstract1.はじめに  グループウェアとは,人々の協調作業を支援するコンピュータシステムである.一般的にはオフィスにおいて,導入コストを安価に抑えて使いやすいグループウェアを導入することは困難である.そこでユーザグループにとって最も使いやすいグループウェアを低コストで導入することを目指すシステムとして,ビジュアルメタグループウェア(Visual Meta Groupware,以下VMGと略す)が本研究室で先行研究されてきた.VMGのコンセプトは次の2つの側面がある. (A)あるユーザグループが必要とする機能を持つグループウェアを構築できる. (B)ノンプログラミングにグループウェアを構築できるため,低コストで導入できる.  先行研究では主に側面Bを達成するための土台となるシステムが開発された.単純な図形を組み合わせることで複雑な視覚的ツールを構築可能とした.  また,側面Aを達成するための手法として自動処理機能を提案した.  本論文では引き続き側面Aを推進し,満足度向上のための土台作りを行う.自動処理機能を強化することで,部品間の機能的連携を実現する.すなわち,単純な機能を組み合わせて複雑な機能的ツールを構築可能とすることを目指す. 2.VMG  VMGとは,特定のユーザグループにとって使い易いグループウェアを構築することを目的として,本研究室で開発されているグループウェア開発支援システムである.VMGはホワイトボードを使った情報共有ツール構築とグループウェア構築のアナロジに注目して作られた.Web上の擬似ホワイトボードである共有領域に,ホワイトボードに貼り付けるマグネットやビニルテープを模した画面要素である部品をビジュアルに配置することで,情報共有を目的としたツールをユーザグループで協調して構築することができる.これにより,側面Bの「低コストでのグループウェア構築」を実現した.  本論文では側面A「ユーザグループが必要とする機能を持つグループウェアを構築できる」の土台を作ることを目指す. 3.自動処理機能の強化  自動処理機能とは著者が卒業研究で提案し,試験実装した機能である.ユーザが部品に対して「条件」と「命令」をあらかじめ設定しておくことで,条件が満たされたときに命令が実行されるという機能である.卒業研究では試験実装に留まったため,「時間」という条件と「移動」という命令をひとつの部品にしか設定できなかった.  本研究では以下のような方針で自動処理機能の強化を行った. (1)全部品で自動処理設定を可能とする (2)「条件」を増やす (3)「命令」を増やす (4)部品に複数の命令を設定可能にする 3.1条件  設定できる条件を3つに増やした.「スイッチ」「時間」「配置状態」である.「スイッチ」は設定したスイッチ部品が押されることが条件となる.「時間」は設定した時刻になると条件が満たされる.時間間隔を設定することで定期的な命令実行も可能となる.「配置状態」は四角部品を枠として設定することで,その枠内に部品が存在すると命令が実行される.2つの枠のANDやORを設定することもできる. 3.2命令  設定できる命令を増やした.全部品で設定できる命令として「メッセージ表示」「移動」「削除」「色変更」などがある.特定の部品でのみ設定できる命令として,四角部品には「枠内の部品を数える」命令,メール部品には「メール送信」命令などがある.また,命令は命令リストに格納される.命令リストには複数の命令を格納でき,命令実行時には上から順番に命令を実行する. 4.運用実験  著者の研究室にて自動処理機能を強化したVMGの運用実験を行った.すでにVMGで卒研セミナ発表者予定表を運用しており,今回はこの予定表に対して自動メール送信機能を構築してもらい,運用してもらった.実験協力者は卒研生16名で,うち1名が構築者(管理者)である.評価はコメントとアンケートによって行った.  構築時の評価として,構築者は「命令一つひとつは分かりやすいが複数部品を連携させようとすると複雑になる」とコメントした.このコメントは,自動処理設定を部品に施しても即座に実行結果を確認できない点が原因である,と著者は考察した.運用時の評価として「自動メール送信機能は便利と思うか」の問いに対して「便利」と回答したのが12名,「どちらともいえない」が4名,「ない方が良い」が0名だった. 5.おわりに  自動処理機能を強化したことで,単純な機能を組み合わせて複雑な機能的ツールを構築することができた.これにより,側面Aを達成するための土台を作ることができたと言える.課題としては,自動処理を用いた複数部品の連携の設定を容易にすることである.

2B-3 (時間: 16:20 - 16:45)
題名複合現実感空間におけるポータブルな実物体を基準に相対移動変化量を軌跡提示する遠隔作業支援
著者*山本 峻, 岡嶋 雄太 (慶應義塾大学大学院), 岡田 謙一 (慶應義塾大学、独立行政法人科学技術振興機構)
Pagepp. 289 - 296
Keyword複合現実感, 遠隔コラボレーション, 遠隔作業支援, 実物体コラボレーション
Abstract近年,遠隔にいるユーザがそれぞれ自分の手に実物を所有し,それをあたかも共有しているかのようにコラボレーションができる環境を目指した研究が行われるようになってきた.従来このような環境を実現するには,アクチュエーターや電磁石などを用いて所有する実物の動きを機械的に同期させる手法,または,複合現実感環境で作業空間上の環境全ての実物の構造を一致させて,さらに,ヒトとモノの初期位置を遠隔間で一致させた環境での遠隔コラボレーションを行う共有手法があった.しかし,初期状態に制限なく遠隔間でユーザがそれぞれ実物体を6自由度ポータブルに動かせる環境で、実物体への操作を遠隔に伝え,なおかつその物体そのものの動きを遠隔に伝達することのできる環境は実現されていなかった. また,遠隔コラボレーションにおいて実物の動きを遠隔空間に伝える場合,これまでは機械的な同期の場合は唐突に実物が動き出したり,動きの始点と終点を把握することはできるがそこにいたるまでの軌道は見落としやすいため,遠隔ユーザの行った操作を正しく把握することが難しかった. 本稿では,ユーザが手にデバイスや道具などを持って作業対象物体へ行なう作業をもう一方の遠隔にいるユーザに教えたりトレーニングをする遠隔作業支援環境を想定し,遠隔地にいる指示者・作業者が共に実物を手で動かしながら作業の支援を行なえる「MR空間における実物体を用いた遠隔作業支援」として二つの提案をする. 一つ目の提案によって,遠隔間の環境を同一にする必要がなく自由な環境設定において,物体のポータブル性を維持と物体そのものの動き遠隔に伝達することを実現する. 作業を教える指示者が自身の実物体を実際に動かすことによって物体操作の手本を見せると,その実物体の動きは遠隔にいる作業者の持つ実物を基準として仮想モデルを用いて提示される.つまり,作業者の持つ実物体を始点に指示者の動作が仮想モデルで三次元的に提示される.作業者はこの仮想モデルによる指示に自身の実物体を重ね合わせていくことによって操作を習う.また,この仮想モデルによる指示情報の提示は常に一つ一つの操作ごとに作業者の持つ実物を基準に行なわれるため,実物体の位置姿勢を作業空間上で完全に同期させる必要はなく,それぞれのユーザは自分の作業対象物を自由に動かすことができる.本システムでの一操作は物体の動きが一定時間停止した場合,または実物体の軌跡が一定角度を越えた変化をした場合とする.以上の物体基準での物体の動きを伝達することによって,空間的・身体的な制約がある場合や,途中でユーザが動いたり体の向きを変えた場合にも実物の共有状態を破綻させることなく作業支援を行うことができる. 次に,二つ目の提案では物体の動きの過程が把握困難であった問題を解決する.操作する実物体が回転移動や放物線のような3 次元的な動きをしながら移動する場合は,遠隔側では動きの過程もこれまでは把握が困難であったが,本研究では動きの軌跡を残像として仮想物を提示し,一つ目の提案で述べた,一操作から次の一操作が始まるまで表示し続けることにより,作業者は時間的な制約を受けずに観察し,それをなぞることによって操作の過程を追従することができる. 本提案手法は,作業空間上の空間構造を遠隔間で同期させなくても作業対象となる実物体を共有できる新しいコラボレーション手法であり,この手法を応用していくことによって,実際に物を触って動かしながらの様々な作業支援を行える可能性がある. この提案概念を実現するためのプロトタイプシステムを実装し評価実験を行った. このプロトタイプシステムを用いて本提案システムの有効性を示すために.本提案システムと,ユーザの向きと物体の初期位置を遠隔間で同一にしなくてはいけない従来システムによる比較実験を行った.その結果,指示者・作業者共に実物体を所有し互いに自分の意思でその実物体を動かせる状況で,物体を基準に動き表示する本システムではユーザが向きを変えても実物体の動きを従来システム同様に共有できるということが確認された.また,動きの軌跡を見せることにより,作業者は操作の過程を認識できたことから,動きの軌跡を表示することの有効性が示された.よって本提案の構成要素である実物を基準とした操作の提示と動きの軌跡を表示が有効であることが分かった.よって,2 つの構成要素を含む本提案手法の有効性が示されたと言える. 今後の展望として,現段階では実物体を持ったままユーザが向きを変えたことを,音声を使って遠隔に知らせる方法をとっているが,ユーザが動いたということもより簡単かつ効果的にアウェアできる機能を検討し加えていくことにより,より効率のよい実物体共有型の遠隔作業支援システムが実現していく.

2B-4 (時間: 16:45 - 17:10)
題名複数のサブコミュニティを有するOSSコミュニティを対象としたネットワーク分析
著者*伊原 彰紀, 大平 雅雄, まつ本 真佑, 亀井 靖高, 松本 健一 (奈良先端科学技術大学院大学)
Pagepp. 297 - 303
KeywordOSSコミュニティ, 分散開発, ソーシャルネットワーク分析, コーディネータ, PostgreSQL
Abstract一般的なOpen Source Software (OSS) は,地理的に分散した不特定多数の開発者がWWW上に形成したOSSコミュニティにおいて開発が行われている.現在,LinuxやApacheを代表とする一部のOSSは,商用ソフトウェアに劣らない品質と機能を兼ね備えているため広く普及しており,情報化社会における社会基盤を支えているといっても過言ではない.中国やインドにおいてオフショア開発が盛んに行われるようになったことを背景に,分散開発の成功事例であるOSS開発を分析する研究が盛んに行われている.それらの研究の目的は,OSS開発の実態を分析することによって分散開発を成功に導くための要因を明らかにすることである. 我々はこれまで,3つのOSSコミュニティ(Apache,Gimp,Netscape)を対象として,OSSコミュニティ内の開発者とユーザの間に形成されたコミュニケーション構造を分析した.分析の結果,OSSコミュニティが活発に活動するためには,開発者とユーザの間の橋渡し役を務め協調作業を支えるコーディネータの存在が重要であることが分かった.本稿では,開発者とユーザに加え,信頼性の高いソフトウェアの実現に重要な役割を果たすと考えられるバグ報告者らの協調作業を分析した結果について報告する. 本稿では,信頼性の高いリレーショナルデータベース管理システムを開発しているPostgreSQLコミュニティにおける3つの参加者グループ(開発者,ユーザ,バグ報告者)に着目し,コミュニティ成立初期からのコミュニティの成長の様子を,コミュニティ参加人数およびコーディネータ数の時間的推移という観点から分析した.3つのグループの協調作業の円滑化に寄与するコーディネータの存在を確認するとともに,4種類のコーディネータが存在することが分かった. 次に,4種類のコーディネータがどのような特徴を有しているかを調べるために,PostgreSQLコミュニティのある1年間を対象として,参加者のコミュニケーション構造をソーシャルネットワーク分析の一手法である中心性分析を用いて分析した.本稿における中心性分析とは,各参加者の情報を発信/受信する量(次数中心性),参加者間の情報伝達における仲介度合い(媒介中心性),コミュニティ全体に対する情報提供/入手のしやすさ(近接中心性)という3つの指標に基づいて,参加者のコミュニケーション構造を分析することを指す.分析の結果,4種類のコーディネータの内,開発者とバグ報告者を仲介するコーディネータ,および,ユーザとバグ報告者を仲介するコーディネータは,他の2種類のコーディネータと比べてバグ報告者とのコミュニケーション量が少ないということが分かった.また,特定の数人のコーディネータは,開発者,ユーザ,バグ報告者の3つのグループの協調作業における仲介に関与し,常に高い中心性を示すことがわかった.分析によって得られたこれらの知見に基づいて,ソフトウェアの分散開発の成功要因について考察する.