題名 | 個人と集団の行動履歴に基づく予測型情報提示システム『水晶珠』の提案 |
著者 | *田島 孝治, 安藤 公彦 (東京農工大学工学府電子情報工学専攻), 大島 浩太, 寺田 松昭 (東京農工大学共生科学技術研究院先端情報科学部門) |
Page | pp. 1089 - 1097 |
Keyword | GPS, 情報提示システム |
Abstract | 近年、GPS 機器の小型化・低価格化が進み、位置情報を利用したサービスが次々と開始されている。従来のGPS による位置情報の利用は、車や船舶などの「物」を中心としたサービスであったが、現在では、PDA や携帯電話などのモバイル機器を利用する「人」を中心としたサービスへ展開を始めている。国内の携帯電話・PHSの契約者数は2007年1月に1億人を突破した。携帯電話には今後GPS 搭載が義務付けられることから、一人が一台の携帯電話を所持し、自身の位置情報を容易に取得可能となる。このため、個人による位置情報の利用が、増加すると考えられる。 インターネットの普及による情報量の急増により、利用者にとって有益な情報が「存在するが、見つけることができない」という状況が発生している。特にモバイル機器においては、端末の大きさや入力デバイスの制限などから、効率的な検索や表示は難しい。これらの理由から、サービス業者により管理されたメニューリスト用いて、用途やジャンルで大まかな情報を検索しているユーザも多い。この手段は情報の選択や入力の手間も大きく、屋外で長く操作時間を費やしたにも関わらず、得られた情報はわずかで、自分の望む情報が得られないケースも少なくない。 本論文ではこれらの問題の解決を目指し、情報提示システムの提案とプロトタイプの試作を行う。本論文で提案するシステムを「水晶珠」と名づける。水晶珠は個人の場所と時間に応じて必要な情報を映し出す、情報提示・共有システムである。携帯電話などのモバイル機器から利用する事を想定し、情報取得時に手間かかる入力作業をほとんど行う必要がないシステムを目指している。 提供する情報は、個人から収集した行動履歴を元に推測する。また、推測の間違いを学習し、利用者にとってより好ましい結果を導くことができる。このように、「水晶珠」は、占い師の使う道具のような「覗き込むだけで本人の必要としている情報を提示するシステム」を目指している。 提供される情報は利用者により追加・変更可能とする。管理者によって一方的に決められたものではなく、災害時や街づくりなどで使われるWeb-GIS と同様に、利用者による情報の書き込みを実現する。この集合知の考え方を利用することで、利用者が必要と感じた細かい粒度の情報まで追加できるシステムを実現する。 提案システムでは、市町村から施設内までのエリア作りに対応することができる。また、位置情報を利用した利用者によるコミュニティの形成を促進し、地域の不審者情報や迷子捜索などの、リアルタイム性の高い用途にも活用が期待できる。 電車通学を行っている大学生が本システムを利用すると、通学時には、大学内に設置された学生向け情報が表示され、休講やスケジュールなどを知ることができる。これは、この学生が大学到着時に学生向け掲示板を毎回確認するという動作を学習した結果である。帰宅時に駅に向かう途中では、自宅までの乗り換え情報や到着予測時間が提示され、急いで乗換えをすべきか多少駅でゆっくりしていっても良いかを知ることができる。この際に、家への連絡といった基本的な処理をこの画面に登録することも可能である。駅に到着し電車を降りる時には、最寄り駅付近の警戒情報や、いつも寄る商店の売り出し情報などを知ることもできる。 さらに、初めて訪れた地域や、特別なスケジュールが設定されていない場合は、周囲の観光情報や地図などの表示が行われ、迷うことなく周辺情報を利用して散策を行うことが可能となる。 本システムの実現には、主に5つの課題がある。 (1) 位置情報の収集と効率的な保存 (2) 行動の学習と予測 (3) 利用者による情報・機能の追加 (4) セキュリティと個人認証 (5) スケーラビリティの向上 システムは利用者から位置情報を収集する。また、収集した大量のログを整理し、効率的に保存する必要がある。さらに、行動履歴を利用して利用者の行動を学習し、利用者が必要としている情報を、利用者自身と他人の行動から予測し提供する。必要な情報の提供方法は状況に応じて、定常的な行動や、スケジュール済みの行動、さらに旅行などの初めての地域での行動など様々な種類が必要となる。また方式を追加・切り替えできる仕組みも必要である。さらに、同じ地域や同じ行動を行う利用者の行動を推薦情報として提示し、自身では気づくことができなかった情報を提供する。 このように、利用者によるシステムの機能と情報の自由な追加・変更を行える構造を実現し、集合知を利用できるシステムとする。 本論文では、モバイル機器において個人と集団の行動履歴を元に、必要な情報を提示するシステム「水晶珠」を提案し、構成および課題の検証と、プロトタイプ作成を行った。 プロトタイプにおけるログ管理では、一人当たりのログは半年分で28MBとなった。これを行動の特徴から導き出した中間点を利用して、特徴をのこしたまま102KBまで圧縮することに成功した。 今後は、セキュリティとスケーラビリティの向上を目指した方式の提案と実装、さらにPDA や携帯電話などの小型端末への実装、利用評価を行う予定である。 |
題名 | 実空間連携コミュニケーション基盤「ロケーションコール」の提案 |
著者 | *千原 晋平, 中野 正務, 坂田 一拓, 石井 健一, 倉島 顕尚 (日本電気) |
Page | pp. 1098 - 1102 |
Keyword | 携帯電話, 位置情報, 通話, 実空間 |
Abstract | 携帯電話の位置情報と通話機能と連携させることで空間独自の通話サービスを実現する実空間連携コミュニケーション基盤「ロケーションコール」を提案する。ロケーションコールを用いることにより、個々の空間の価値向上を実現する通話サービスを携帯電話キャリアに依存することなく提供することが可能となる。本稿では、ロケーションコールのコンセプト、機能要件及び実現方式について述べると共に、開発した試作システムについて説明する。試作システムを用いてユーザ待ち時間を評価した結果、待ち時間は3秒以下に収まり実用上問題のないことが確認された。 |
題名 | リファレンスタグを用いた非定常隠れマルコフモデルによるエリア検知方式 |
著者 | *小西 勇介, 中尾 敏康 (NEC共通基盤ソフトウェア研究所) |
Page | pp. 1103 - 1111 |
Keyword | 位置情報, RFID, 確率推論 |
Abstract | ・はじめに 近年のモバイルデバイス技術や移動体通信環境の急速な発達と普及により,移動体の位置情報の取得/活用に注目が集まっている.特に屋内におけるヒトやモノの位置情報取得システムに関しては,これまでにGPS応用技術,無線LAN,赤外線,超音波などを利用したシステムが多く提案されているが,検知精度の不足や高い導入/運用コストなどの理由により,広く普及するには至っていない.これに対して,移動するヒトやモノの管理,トレーサビリティが要求される物流管理,個人/個体認証,キャッシュレス決済など多くの事業領域において,RFIDシステムの利用が広まりつつある.RFIDの中でも特にアクティブ型と呼ばれるシステムを利用して,屋内におけるエリア単位の位置情報を取得できる低コストのシステムも提案されている.しかしながら,RFIDは無線通信を利用する技術であるため,電波環境の乱れによる検知ミスが大きな問題となっている. 我々は,このような検知ミスをはじめとするアクティブRFIDシステムでのデータ/情報の欠落(情報欠落)を低減する技術の開発に取り組んでいる.これまでに,環境の変動成分を検出するために環境に固定して利用するリファレンスタグを提案し,アクティブ型RFIDを用いてユーザがあるエリアに存在するかどうかを正確に検知できる方式を開発してきた.本論文ではさらに,ユーザタグの電波が近接して設置された複数のリーダにより同時に検知されてしまうような場合でも,ユーザタグがどのエリアに存在するかを正確に検知できる方式を提案する. ・方式の概要 本方式では,ユーザタグがあるエリアに存在することを1つの状態と見なし,誤差を含む観測量(複数のRFIDリーダで得られるユーザタグの受信信号強度)から,各状態の発生確率(ユーザタグが各エリアに存在する確率)を,状態遷移(ユーザの各エリア間の移動)を考慮して算出するために,隠れマルコフモデルを利用する.さらに,リファレンスタグを用いて検出されたユーザの移動有無情報に応じて使用するパラメータを動的に更新する仕組みを適用することにより,高精度なエリア検知を実現する. ・リファレンスタグによる状態遷移確率表の動的な更新 リファレンスタグの受信信号強度変動の大きさから検出した各エリアにおける“場の動き”と,ユーザタグの受信信号強度変動の大きさから検出した“ユーザタグの動き”から,場の動きとユーザタグの動きが共に有る場合に限り該当エリアにおいて該当ユーザタグを所持したユーザが移動していると判定し,ユーザの移動有無を検出する.検出された移動有無情報を元に,隠れマルコフモデルで使用する状態遷移確率表を動的に更新する.このような仕組みを適用することにより,ユーザの移動が無いときにはエリア検知の安定性を高めながら,ユーザの移動が有るときには移動に対するエリア検知の時間応答性を高く保つことが可能となる. ・隠れマルコフモデルによるエリア存在確率の算出 あらかじめ各エリアにユーザタグが存在しているときに各エリアに設置された複数のRFIDリーダで取得される受信信号強度の状況を学習させておくことにより,ある時点で各RFIDリーダで取得される受信信号強度の組合せが出力される確率(以下,出力確率)を算出する.算出された出力確率と動的に更新される状態遷移確率表を用いて,逐次,隠れマルコフモデルに従ってユーザが各エリアに存在する確率を算出することができる. ・評価と今後の課題 本方式の有効性を確認するために,独立行政法人情報通信研究機構(以下,NICT)のユビキタスホームで評価実験を行った.ユビキタスホームとは,家庭におけるユビキタス環境のテストベッドとしてNICTけいはんな情報通信融合研究センター内に構築された実験施設である.ユーザタグを身に付けた2人のユーザが,アクティブRFIDリーダおよびリファレンスタグを設置した7つのエリアを,設定したシナリオに従って移動する評価実験の結果から,提案方式によって安定性と時間応答性を両立したエリア検知が実現でき,従来方式(受信強度が最大となるリーダが設置されたエリアを検知結果とする方式)に対して検知精度を約15%改善できることを確認した. 一方,本方式では,あらかじめ実施するキャリブレーション実験の結果から,基準となる受信状況および出力確率表を生成しておく必要がある.また,場の動きやユーザタグの動き検出,および,検出されたユーザの移動有無をもとに状態遷移確率表を決定するためのパラメータも,あらかじめ与える必要がある.今後,これらの各種パラメータを簡単に設定できるようなキャリブレーション手法について検討を進めていく. |
題名 | パーソナルコンテンツと位置情報を結合・共有するためのプラットフォーム |
著者 | *久野 綾子 (立命館大学大学院 理工学研究科), 西尾 信彦 (立命館大学 情報理工学部) |
Page | pp. 1112 - 1117 |
Keyword | 位置情報 |
Abstract | 近年,GPSや無線LANによる位置測位技術の発展により,位置情報を使ったサービスが増えている.これらのサービスは位置情報と結び付けられたコンテンツがあってこそ真価を発揮する.ユーザが所持するコンテンツ(パーソナルコンテンツ)と位置情報を結びつけることができれば,ユーザは場所をクエリとして自分の所持するコンテンツを検索することが可能となる.また,位置情報と結び付けられたパーソナルコンテンツを他人と共有することでコミュニケーションを支援したり,場所に対する新たな発見があると考えられる. そこで,本論文ではパーソナルコンテンツと位置情報を結びつけるプラットフォームを提案する.パーソナルコンテンツと位置情報を結びつけるにはそれぞれに含まれている「時間」のデータを用いて結びつける.またパーソナルコンテンツを単なる位置情報と結びつけるだけでなく、人間に認識できる「場所」と結び付けられればユーザにとって利用しやすい.本論文では,スケジュールに入力された「場所」と位置情報を結びつける手法について述べ,実装したアルゴリズムの予備実験を行った |
題名 | 位置情報を用いた情報連携プラットフォームに関する研究 |
著者 | *中村 友一, 三屋 光史朗, 植原 啓介 (慶應義塾大学 政策・メディア研究科), 村井 純 (慶應義塾大学 環境情報学部) |
Page | pp. 1118 - 1122 |
Keyword | 位置情報, Webサービス |
Abstract | インターネット上において,Google Maps やYahoo Mapsのように地理位置情報を利用した地図Webサービスはいまや不可欠なものとなり,サービスの機能拡張が著しい.また,インターネット上には,ある特定の地域を詳細にあるいは利用形態に特化した形で記した情報も多く存在している.具体的には,ビルのフロアマップや列車の路線図などが挙げられる.これらの情報は一般的に所属する組織のサイトにおいて管理・公開されている.このように,地理位置情報は地図Webサービスのみに利用されるものではなく,様々な情報に付随して公開されることも珍しくない. 現在,インターネット上の情報を検索するためのサービスとしてGoogleなどが挙げられるが,検索サービスは一般的に検索したい語彙を用いて検索を行う.この語彙検索で情報を検索する場合,地理的に関係のあるものは考えられずに,語彙に関係するものが検索結果として表示される.そのため,本当に欲しい情報を探索するためには,様々な経路を探索しなければならなくなることがある.例えば,都内在住者が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)まで移動する場合,SFCの所在地の確認,最寄り駅からSFC最寄り駅までの移動方法の確認,SFC最寄り駅からSFCまでの移動方法など,これだけ煩雑な手順を踏んでもユーザは必要とされる情報を全て取得することが出来ない. また,インターネット上の地理位置情報の表現方法もWGS84で表された緯度経度,住所表記など様々な種類が存在している.このように様々な表記がされているため,インターネット上で扱う位置情報は整理されておらず混乱している. このような場合において,地図間を協調させる機能が必要となってくる.そこで,本研究の目的は,地理位置情報及び付随情報を連続して扱うための情報連携プラットフォームを提案することである.本研究で述べる情報連携プラットフォームとは,世界中に偏在しているデジタル情報を,位置情報をキーとして関連付けを行い,相互参照を可能にする情報流通基盤を示す.この目的を達成するために,本研究では「付随情報に位置情報を書き込むための仕組み」及び「位置情報を含んだ付随情報を流通させるためのディレクトリサービス」の提案及び実装を行う.本研究によって作成されるフレームワークを地図間協調リンク(Map Collaboration Link)と呼ぶ.地図,付随情報提供者は,地図及び付随情報に位置情報を書き込む.付加された位置情報は,地図及び付随情報間での相互参照を行うためのキーとして利用される.このときの位置表現方法としてPlace Identifier を利用する.これにより,地図や付随情報に位置情報を付加する際に,緯度経度のみならず住所や施設名等,場所を特定するための様々な表現方法が利用可能になる.これらの位置情報を含んだ付随情報を公開/流通させる位置情報システムとしてMap Collaboration Link Portal Siteを展開させる.Map Collaboration Link Portal Siteでは,地図や位置情報など様々な条件で検索することが出来るポータルサイトである.利用者はポータルサイトにアクセスすることで,地図を介した検索が行えるようになっている.検索はキーワードや位置情報などで検索されるようになっている.検索では,キーワードや位置情報に対応したものが重み付けされる.また,地図間のリンクの強さにも重み付けを持たせる.検索結果はこれらの重み付けが重いものから結果上位に出るようになっており,結果として表示された地図から様々な地図を辿ることが出来るようになっている. 本ポータルサイトを利用することで,一つの地図から相互連携されている地図を辿ることで,ユーザが取得したい様々な情報を取得することが出来るようになる.前述の例を参照すると,一つの地図Webサービスを利用することで,各地点間の電車経路(例えば,新宿駅から湘南台駅など) やフロアマップの情報を探すことなく,双方向から参照することが出来るようになる. 本研究の有効性を示すために,ポータルサイトの設計と実装を行った.Map Collaboration Link Portalを利用することで地図間の連携を行うことが出来ることを確認した.今後は本ポータルサイトを利用しながらアンケートをとることで評価をとっていきたいと考えている. |