題名 | 政府・民間連携を考慮した非常時情報通信システムの設計と実装 |
著者 | 大野 浩之 (金沢大学総合メディア基盤センター), *猪俣 敦夫 (独立行政法人 科学技術振興機構), 山下 仰 (金沢大学工学部情報システム工学科), 多田 浩之, 能瀬 与志雄 (みずほ情報総研株式会社), 熊平 美香 (クマヒラセキュリティ財団) |
Page | pp. 972 - 979 |
Keyword | EIS, 非常時情報通信, 大規模災害, 安否情報 |
Abstract | 世界各国においても地震、津波、洪水、噴火などの大規模災害が頻繁に報告されているわけではない。しかし、これらの大規模災害が発生した際には想像すらつかない甚大な被害の発生が後を絶たないのも事実である。もちろん我が国においてもこれらの問題に対して何も対策をとっていないわけではなく、大規模災害を想定した考えられうる対策を掲げている自治体は比較的多い。しかし、過去の大規模災害の事例から省みても災害発生時には被災者の救援活動や想定外の対応処理などに追われ、被災者の安否情報をはじめとして被災地外との重要なコミュニケーション確立のための手段の確保に関しては未だ不十分である。 近年、通信事業者などにおいて被災地における緊急通信用の回線を確保するために、被災者の安否情報などをデータベースに格納しインターネットを通じて配信を行う災害用伝言ダイヤルや災害情報伝言板などのサービスの提供を始めている。これは、インターネットで培われた通信技術をもとにWEBアプリケーションや電子メールを活用することにより、従来型の音声(固定電話および携帯電話)に見られる特定地域における回線の輻輳問題から回避できることやテレビやラジオ放送に比べて被災情報の検索・リスト化という点において優位であることが理由である。本研究における最終目標はこのような大規模災害における非常時に対応可能な非常時情報通信システムを有効利用するために社会的・制度的課題を明らかにすることである。既に、我々は被災者の安否情報確認システムに関わる法的・社会的な要件事例の収集、整理も実施しており、大規模災害時等の緊急時における通信の特徴を1. C toC、2. C to G、3. G to C、4. G to Gの4つのタイプに分類できることを指摘した。ここでCとは民間(住民や企業)であり、Gとは政府、応急対応機関を指す。ここで、国内におけるこれら4タイプについてまとめる。1.C to CにはIAA(I Am Alive)システム、電気通信事業者による災害用伝言ダイヤルや災害用伝言板が存在する。2. Cto Gには電話による119番、110番が存在する。3. G to Cには市町村が防災情報を収集し、また住民に対して防災情報を周知するためのネットワークである市町村防災行政無線が存在する。4. G to Gには内閣府により運用・管理された中央防災無線、消防庁により運用・管理された消防防災無線、各都道府県により運用・管理された都道府県防災行政無線が存在する。 しかし、このような各機関が連携した環境において、特にインターネットを利用した非常時情報通信システムを実際に適用する際には、あらかじめ関係機関ごとのネゴシエーションや機器設置や接続試験などが必要であり、それらを容易に稼動し検証するための明確な手続きは今のところ存在していない。それだけでなく、大規模災害発生時にはこれらの各機関が密接に連携した形で迅速にサービスが提供されなければならない。非常時情報通信システムは、WEBサーバのようにインターネット上に固定的に配置され、独立してサービスを提供するような単純な計算機ネットワークに閉じたシステムではない。民間と政府・応急対応機関双方が常日頃からネゴシエーションを行い、運用等から様々な経験を活かした実稼動インフラを構築し、いかにそのインフラにおいて必要なサービス(アプリケーション)を展開できるかを、これら4タイプにおける機関ごとの役割を明確にしておくために何らかの検証環境が必要である。 そこで本稿では、実際のCとGにおける非常時情報通信システムに焦点を当てその実稼働インフラを考慮した上でのテストベッドを実現するために構築したプロトタイプについて述べる。プロトタイプは、4ノードで構成される。また、ノード増設を容易に実現するためにノードの構成情報を他のノードに分散配置するこで、増設時にはネットワークトポロジにおける最短ノードから取得するようにした。続いて、各ノード構成について述べる。大規模災害が発生した場合を想定すると被災地において大掛かりなシステムを迅速に設置、稼動させることは困難である。そこで、被災地ノードにおいても比較的容易に稼動が可能であること、さらに移動手段を考慮して、可搬式のキャビネットラックに配置可能な安価でかつ小型サーバによるクラスタリング構成を取った。さらに本稿では、CやGの拠点が複数存在した環境における使用事例を想定して実施した実証実験についても報告する。一例としてCからG(C to G)の場合には、各ノードに対してCあるいはGをアサインし、Cに存在するユーザからのリクエストに応じて、Gがユーザからの情報を集約するサイトを容易にクローズドな環境において実現出来ることを示した。 |
題名 | 携帯電話を用いたユニバーサルな安否情報登録システムの開発 |
著者 | *張 正義, 吉田 雄紀, 湯瀬 裕昭 (静岡県立大学大学院経営情報学研究科) |
Page | pp. 980 - 983 |
Keyword | 携帯電話, 安否情報, ユニバーサル |
Abstract | 日本は地震が多く発生する国である。1995年の阪神大震災や2004年の新潟県中越地震などでは大勢の人々が被害を受けた。地震が発生した場合は、地震直後の被災者やその関係者にとっては、まず災害の状況を把握するための情報が必要となる。地震といえば、死者・けが人の数、建物やライフラインの被害などの被害情報だけが必要と思われるが、被災者にとっては、震度・震源地などの災害原因に関する情報が、避難や救助のために必要である。また、被災者の関係者にとっては、家族や知人の安否や避難先などの情報が必要とされる。 このような情報を把握するため、最も使われているのはWeb安否情報システムである。静岡県立大学でもWeb安否情報システムを導入しており、学生の安否情報登録と閲覧機能を備えている。このWeb安否情報システムは学生の安否情報の登録には学籍番号、氏名、生年月日を認証データとして使っている。安否情報として、健康状態、大学への復帰見込み、所在地などを登録することができる。閲覧機能として、学生の名前の一部を入力することで該当する学生が列挙されそれらの情報を閲覧することができる。学内の学生のみならず、学外から親類、父兄なども安否情報を閲覧することができる。ただし、プライバシー保護の観点から、閲覧できる安否情報は限定されている。また、このWeb安否情報システムはパソコンだけではなく、携帯電話などの携帯端末からも利用できる。 視覚障害者がパソコンを使ってWeb安否情報システムにアクセスする場合、市販の音声読み上げソフトを利用することで、システムの操作が可能になる。高齢者もパソコン上の文字を大きく表示することで、操作が容易になる。しかし、一般のパソコンには音声読み上げソフトはまだ普及しておらず、利用できるパソコンが限られている。また、災害発生後にパソコンから利用するより、普及率が高く常に持ち歩いている携帯電話から利用するほうが実用的かつ現実的である。しかし、視覚障害者にとって携帯電話からWeb安否情報システムを利用することは携帯電話の読み上げブラウザの性能がパソコン用の音声読み上げブラウザに比べて劣るため難しい。高齢者の場合、携帯電話の小さいキーは操作しにくく、携帯電話からWeb安否情報システムを利用することが難しい。そのため、視覚障害者や高齢者にとって使いやすい携帯電話用安否情報システムが必要である。 そこで、本研究では視覚障害者や高齢者が、携帯電話から安否情報の登録を最小限のボタン操作で可能なユニバーサルな安否情報登録システムを開発する。本システムでは、クライアントプログラムをiアプリとして開発する。クライアントプログラムは、視覚障害者向けに、音声ガイダンスの機能を備える。聴覚障害者の利用も考慮し、文字でのガイダンス情報も表示する。また、高齢者向けに文字を大きめに見やすく表示する機能を備える。非常時に利用者が本システムのiアプリをダウンロードするとき、予めユーザ確認情報の入力を促す。そのときに視覚障害者は健常者の助けを必要とするが、最初にユーザ登録を行うことでそれ以降のユーザ認証と個人情報の入力の手間を省き、視覚障害者一人で最小限のボタン操作でシステムの利用を可能にする。災害時の安否情報の入力は、音声ガイダンスに従って現在の健康状態を選択する、所在地は携帯電話の位置情報取得機能を使い現在地の取得を行うことでユーザからの入力は最小限にする。また、既存の安否情報システムを変更せずに、クライアントプログラムから安否情報を登録できるような汎用性を持たせるために、新たに中継サーバも構築する。 本システムでは、視覚障害者がiアプリをダウンロードするときのユーザ登録に健常者の助けを必要とするので、今後はユーザ情報の入力を視覚障害者一人で入力可能なシステムにすることを検討する。今後の課題として、視覚障害者、聴覚障害者や高齢者に実際に利用してもらい、システムの評価を行うことが挙げられる。 |
題名 | 無線センサネットワークの災害現場への適用に関する考察 |
著者 | *爰川 知宏, 小橋 喜嗣 (NTTサービスインテグレーション基盤研究所), 鄭 懿, 峰野 博史, 陳 恵芳 (静岡大学情報学部), 水野 忠則 (静岡大学創造科学技術大学院) |
Page | pp. 984 - 990 |
Keyword | 無線センサネットワーク, 災害対策, 社会システム |
Abstract | 無線センサネットワークの災害現場への適用について,要求条件の整理を行った.災害時の初動体制として重要な,災害発生後3日間での適用に焦点を当て,実際に適用した場合に想定される要件を,過去の災害対応の教訓などをもとに5つの観点で明らかにした.センサのライフタイムを伸ばす観点から,ネットワーク構成方法に着目し,改良型LEACHプロトコルをベースとした通信処理の効率化アプローチを提案し,その有効性について基礎評価を実施した. |
題名 | 加速度情報を用いた常時携帯型機器の地震識別に関する研究 |
著者 | *吉田 雄紀, 張 正義, 湯瀬 裕昭 (静岡県立大学大学院経営情報学研究科) |
Page | pp. 991 - 996 |
Keyword | 災害情報システム, 加速度センサ, 地震 |
Abstract | 日本は地震大国といわれるほど地震が多く、常にその脅威にさらされている。そのため、災害時に利用される救助ロボットや災害情報システムが多く開発・研究されている。災害情報システムには、被災者が自分の安否や被災状況などを親族や知り合いに伝えるための災害用伝言ダイヤルや、複数の被災者から被災情報を集めてハザードマップを作成し救助や避難に役立てる災害ハザードマップ、地域ごとに掲示板を設置して被災状況、避難場所、集合場所の告知などに利用する災害時連絡用掲示板などがある。 新潟県中越沖地震では、災害用伝言ダイヤルは運用されその成果をあげている。しかし、災害用伝言ダイヤルや災害時連絡用掲示板は適当な携帯端末から被災者自らの安否情報や避難場所などを録音、書き込みする必要がある。また、災害ハザードマップも被災者からの被災情報の提供がない限り被災状況の把握ができずハザードマップとしての役割を果たさない。このように災害情報システムの多くは、通信インフラが正常に動作していることが前提となっており、被災者や被災者の知人はパソコンや携帯端末を使ってサーバと通信する必要がある。そのため、被災者が怪我を負って機器を操作できない場合や気を失っている場合などにはシステムは利用できない。また、通信インフラが災害によって破壊されてしまった場合、被災者はパソコンや携帯端末を使ってサーバと通信できず、災害時の避難や救助活動の助けにならず本来の機能を果たさない。今までの地震では、大きく通信インフラが破壊されたこともなく、現在の通信インフラは想定しうる震度では破壊されることはないといわれている。しかし、何らかの要因が重なり通信インフラが破壊される場合や山村など通信インフラの整備がもともと整っていない地域では、既存の災害情報システムが利用できない。 そこで、本研究では災害時に被災者の操作を必要とせず通信インフラにも依存しない人命救助に役立つシステム構築のための基礎研究として、人が3次元加速度センサを持った状態での3次元加速度の解析を行う。本研究では、民製機器に搭載されている3次元加速度センサを用いて加速度情報の取得を行うシステムの構築を行う。本システムは、3次元加速度センサからの3次元加速度情報と傾き情報をBluetoothを利用して取得、蓄積する。また、3次元加速度センサの傾きや振幅の状況を3次元画像データとして逐次表示することで3次元加速度センサがどういう状況にあるかを視覚的に理解しやすい機能を追加する。 3次元加速度測定のために、人が3次元加速度センサを携帯した状態で本システムを利用して様々な環境下で加速度の測定を行う。3次元加速度センサを携帯して歩行している場合、走行している場合、自動二輪に乗車している場合、自動四輪に乗車している場合など一般の生活環境下で加速度の変化が見込まれる環境と擬似的に地震を再現する起震装置内で3次元加速度センサを携帯して加速度データの測定を行う。実験結果から通常の環境下と起震環境下との加速度の比較を行う。 本研究では、3次元加速度データ取得、保存のためのプログラムを作成し、人が3次元加速度センサを携帯した状態での一般生活下と地震時の加速度データの取得を行い、地震の識別を試みた。今後は、多くの人が常に持ち歩いていると考えられる携帯端末上で災害を検知した後の携帯端末単独での救助要請を行うシステムについて研究開発を行っていく。特に阪神淡路大震災では、救助やマスコミのヘリコプタの飛行音によって瓦礫の下敷きになった人の助けを求める声を聞き取ることができず救助の妨げになり、ヘリコプタの飛行を制限するサイレントタイムの設置が提案されている。そこで、被災者が動けないまたは意識を失い自発的に救助要請や第三者への連絡ができない場合に、サイレントタイム時に音を発して救助者に対して携帯端末自身が救助を求めることができる機能などについて検討する。 |
題名 | 地方自治体における災害対応管理WebGISシステムの構築とその有効性の検討 |
著者 | *浅野 俊幸 ((独)海洋研究開発機構/横浜国立大学大学院 環境情報研究院), 天見 正和 (株式会社ドーコン), 佐土原 聡 (横浜国立大学大学院 環境情報研究院) |
Page | pp. 997 - 1002 |
Keyword | 防災, 情報システム, WebGIS |
Abstract | 独立行政法人 防災科学技術研究所・地震防災フロンティア研究センター・川崎ラボラトリーは,平成16年度から文部科学省の重点課題解決型研究プロジェクトの研究プロジェクト「危機管理対応情報共有技術による減災対策」の研究を行っている.本稿で紹介する研究は,本プロジェクトの一環として行なわれたものである. 日本中を震憾させた阪神・淡路大震災から12年が経過した.震災を引き起こした兵庫県 南部地震が発生したのは,1995年1月17日早朝.この地震では地震直後の死者が5,500人,負傷者が4万数千人という大変な被害が生じてしまった. 震災の被害が著しく大きくなった理由はいくつもあるが,その一つとして,被災者の救出や消防活動の前提となる被害情報の収集と伝達が大幅に遅れ,それが犠牲者の増加につながったという事実は否定できないだろう.適切な救出活動や消防活動を行うためには,地震の被害がどのくらいの規模なのか,どこにどのような被害が出たのかを大まかでもいいからすばやく把握して,それらの情報を他の機関に迅速に伝えることが必要だが,この震災では肝心の情報収集・伝達がままならず,その結果,大規模な初動態勢を発動することができなかったのである. そこで,震災後,国やいくつかの地方自治体では,震災の経験をふまえ,膨大な費用を かけて,新たな防災情報システムの構築や,災害情報の内容の改善に着手した.なかでも,地震初期にすばやく被害状況を予測し,防災関係機関の初動態勢を迅速に立ち上げるためのシステムの開発がひろく行われた. これまでの情報システムは災害予測を行うものがほとんどであり,災害直後での有効な情報共有を考慮したものは少ない.また,自治体に導入された防災情報システムは,クライアント/サーバ・システムやWebシステム等の一極集中的なシステムが導入されている.災害時という劣悪なIT環境を考慮すると一極で情報を管理する事は望ましくない.しかし,Webシステムであれば,ネットワークに接続できる環境であれば,離れたところからの操作も可能であり,管理が複雑でない・費用も比較的安いなどメリットがある.そこで,近年では多くの自治体に導入され始めている.災害時の劣悪なIT環境での一極集中的なシステムでは,アクセス集中によるレスポンスの遅れや,GIS機能を持つことによるサーバの負荷が問題視され,実際の災害対応で使えるかどうか疑問である.これまで自治体に導入されたWebタイプの防災情報システムでは,その管理組織の特徴から有効性の評価は外部には漏れてこない. そこで本稿では,災害直後に情報共有することが可能な災害対応管理WebGISシステムを構築し,その有効性を評価した.この評価は,数回にわたる大規模な災害対応を実施・経験した自治体の協力を得て,大規模な実証実験を行ない,その結果に基づいたものである. |