題名 | 追突事故防止を考慮した車両位置の伝搬手法の提案 |
著者 | *岡田 陽次郎, 春名 恒臣 (慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻), 重野 寛 (慶應義塾大学理工学部) |
Page | pp. 82 - 87 |
Keyword | ITS, 車車間通信, フラッディング |
Abstract | 今日,我々にとって自動車は日常生活において欠かせないものとなっている.自動車は個人各々の都合により任意に移動することができ,利便性の面で非常に優れている.しかし,自動車はこういった有益な面ばかりではない.その反面,自動車の持つ特性により,様々な問題が起こっている.交通事故・交通渋滞・環境汚染がその代表である. 自動車交通社会の問題を根本的に解決するために,ITS (Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)の研究が世界的に行われている.ITSとは,最先端の情報通信技術を用いて,道路と車を一体のシステムとして構築し,安全性や輸送効率,さらには快適性・利便性を向上させるというねらいがあり,その結果,これまでに述べた問題を根本的に解決しようとするものである.ITSにおいて具体的に進められている研究として,道路と車両が通信する路車間通信と,車両と車両がお互いに通信し合う車車間通信がある. 路車間通信では急速に普及しているETC(自動料金収受システム)のようなスポット型の通信に加えて,道路交通情報の提供のような路側から車両への情報送信,また交通状態の把握や管理のために車両から路側に車両情報を送信することも考えられる.また,安全運転支援のために事故を起こしやすい区間において常時接続が可能なような連続型の路車間通信についても研究が行われている. 車車間通信では多くの車両が車車間通信のための車載器を搭載することが必要であるものの,車両同士の通信によってリアルタイム性の高い走行制御や緊急情報の伝達を行うことが可能であり,安全運転支援や道路交通の効率化の実現には欠かせない技術である.リアルタイム性の高い車両事故防止システムのようなアプリケーションを車車間通信で用いるためには,周辺車両の位置は必ず把握する必要がある.そこで現在,移動性の高いノードへデータを届ける手法であるフラッディングを車車間通信に適用することで,車両IDや車両位置・速度・加速度などの車両情報を伝搬させる手法が検討されている.従来検討されてきた周辺車両に自車両の位置を把握させる方式では,信号や道路形状などによる車両特有の運動である加速や減速を考慮せず,一定周期で車両情報を伝搬している.車両の運動を考えたときに,追突する危険性は常に存在する.追突事故を考慮し,一定周期で車両情報を伝搬させると,トラフィック量の増加が生じてしまう.トラフィック量が増加すると,車車間通信においてパケットが送信先へ届かない可能性が生じる. そこで本研究では,フラッディングによる伝搬手法をベースに,追突事故の防止を目的とした,パケット送信周期を適切な値に動的に変化させる手法を提案する.この場合の適切とは、追突する危険性が0であるということを指す.伝搬するパケットには車両IDと位置・速度・加速度を含ませる.提案方式の2つの機能として,パケット送信周期制御とパケット伝搬制御を考える.前者は,車間距離・速度・加速度より追突事故の危険性を推測し,次のタイムスロットまでに追突しないパケット送信周期を周辺車両のパケットを受信するたびに逐次計算により決定する.そのパケット送信周期を用いて自車両の位置情報を送信する.後車では,危険度に応じてブロードキャストとフラッディングのどちらかを用いてパケットの伝搬範囲の切り替えを行う.伝搬範囲の切り替えを行うことで,追突する危険性が高い車両にパケットを届けるようにする.また,ブロードキャストとフラッディングの切り替えをし,トラフィック量の増加を防ぎながら車両情報の伝搬をする.パケット伝搬範囲の切り替えを行うために車両の状態遷移を考え,危険性が低い場合を通常走行モード,危険性が高い場合を危険走行モード,車両が停止している場合を停止モードと定義し,その3つの車両状態を考える. シミュレーションにより,提案手法の性能を評価し,トラフィック量を低く保ちながら,危険性が低い場合にはパケットの送信を抑え,危険性が高い場合にはパケットを頻繁に送信させることを示す. その結果,提案方式では,追突する危険性が低い状況ではパケット生成量を低く抑え,危険性が高い状況ではパケットを多く生成しながら,危険性が高い状況においてもトラフィック量を低く保つことが示された.よって,追突事故の防止を考慮した位置の伝搬は,安全性に着目したITSアプリケーションによる位置の伝搬をサポートし,交通事故防止を援助することができると考えられる.また,位置を把握させることで,他のアプリケーションにも利用可能であると考えられる. |
題名 | 車車間通信を用いた渋滞情報収集と目的地への到着時刻予測手法の提案 |
著者 | *木谷 友哉, 寺内 隆志 (奈良先端科学技術大学院大学), 柴田 直樹 (滋賀大学), 安本 慶一 (奈良先端科学技術大学院大学), 東野 輝夫 (大阪大学), 伊藤 実 (奈良先端科学技術大学院大学) |
Page | pp. 88 - 95 |
Keyword | 車車間通信, 渋滞情報, エリア分割 |
Abstract | 本研究では,道路を走行する各車両が道路の混雑状況を自律的に収集し,目的地への到着時刻を推測できるようにすることを目的とした,車車間通信による情報管理・伝播方式を提案する. 提案方式では,対象道路網をエリアと呼ばれる部分領域群に分割し,各車両がその経路を通過する時間を部分領域毎に計測する. 経路の部分領域毎の通過時間の情報を他の車両と車車間通信を用いて,交換,収集,集計し統計情報として流通させることで,各車両が目的地への経路の通過にかかる時間を予測できるようにする. 車車間通信による統計情報生成の際には,異なる車両を経由して同じデータが重複して受信され集計されるという問題が起こるため,データのハッシュ値を付加することで重複集計をある程度回避できるようにする. また,限られた通信帯域のもとで統計情報を送信するために,提案方式では,統計情報を幾つかのカテゴリに分類し,重要なカテゴリの情報をより高い優先度で送る. 提案方式の有効性を評価するため,車車間通信のプロトコルおよび集計・管理システムを設計・実装し,交通流シミュレータNETSTREAM に組み込み,実験を行った. その結果,車車間通信を用いた統計情報の作成・交換が十分に可能であることを確認した. |
題名 | 次世代プローブ情報システム(1)〜スケーラブルなプローブ情報の収集・配信アーキテクチャの提案〜 |
著者 | *三津橋 晃丈 (NEC 共通基盤ソフトウェア研究所), 藤山 健一郎, 喜田 弘司, 中村 暢達 (NEC サービスプラットフォーム研究所) |
Page | pp. 96 - 103 |
Keyword | ITS, 位置情報システム, センサーネットワーク, ユビキタス情報処理 |
題名 | 次世代プローブ情報システム(2)〜大規模高速マップマッチングアルゴリズムの提案〜 |
著者 | *喜田 弘司, 藤山 健一郎, 三津橋 晃丈, 中村 暢達 (NEC インターネットシステム研究所) |
Page | pp. 104 - 109 |
Keyword | マップマッチング, ITS, アベイラビリティ |
Abstract | 1.はじめに 近年,自動車等の交通に係る様々な社会的要請への対応方策として、ITSが推進されている.本稿では,車両を動くセンサーとみたて車両個々の情報をサーバに集約し加工することにより新たな価値を創出する「プローブ情報システム」を議論する. プローブ情報システムは現在,実証実験の段階であり,経済産業省とソフトウェアエンジニアリング技術研究組合(COSE)の共同プロジェクトが最も新しい[1].この実験では8500台のタクシーやバスからのプローブ情報を使って5分周期で渋滞情報を生成する. 実用化を目指した次のステップは,全国規模で数万台のプローブ情報を解析することであり,大規模化への対応が重要な技術課題である.本稿では,プローブ情報の解析には欠かすことができない,マップマッチングの大規模化のためのアルゴリズムを提案する. 2.マップマッチングの分析 2.1 問題定義 マップマッチングとは,車両の位置情報から,車両が走行している道路を紐付ける.本稿では,道路ネットワーク全体を交差点から交差点などの単位で区切った道路区間へのデータのマッチングを行う. 2.2 要件分析 ITSのサービスは社会インフラであり以下の要件を満足する必要がある. スケーラビリティ:車両数,適用地域の拡大に伴いボトルネックのないマッチング方式である必要がある. リアルタイム:渋滞情報などリアルタイム性が重要視されるサービスのニーズが高く,また(夜間)バッチ処理では処理が追いつかない問題の発生が考えられ,可能な限り処理コストがひくい方式である必要がある. アベイラビリティ:想定外の大量にデータが発生した場合においても,システムを停止させることなく解析が継続できる必要がある. 3. 大規模高速マップマッチング 3.1 基本方針 問題の本質は,「データの発生速度と比べ,データの解析速度の方が早い必要がある」ことである.1データ当たりの処理コストを下げる工夫も重要であるが,前記の条件を保証することはできない.そこで我々は,近似計算により,データの解析速度を制御できる方式を提案する.すなわち,発生するデータが少ない場合には,1データ当たりの平均解析コストをかけて正確に計算し,発生するデータが多くなればなるほど,近似計算により1データ当たりの平均解析コストを低くし高速に解析する. 3.2 高精度近似処理 高精度近似処理では,データの解析速度の制御を,解析するデータのサンプリングレートを変えることで行う.精度の低減を抑えるために,車両データのローカル性に着目したサンプリングレートの決定方法を提案する.車両データを分析すると,同じ道路を走っている車両はデータが似ており,サンプリングによりデータを捨てたとしても解析に影響が少ないと考えられる.そこで,高精度近似処理では,道路を地理的な接続関係でグルーピングし,解析に十分にデータがそろっているグループはサンプリングレートを低くし,データがそろっていないグループはサンプリングレートを高くする.解析に必要なデータ数の十分性は,道路の長さ、データの分散値,データの時間変化、カーブ,交差点などの道路の構造で算出する. 3.3 アルゴリズム 前処理: (ステップ1)道路ネットワークを等間隔にグリッドに分割 (ステップ2)道路の結合関係からグリッドを結合(グルーピング) マッチング処理:以下のステップを全データ繰り返す (ステップ1)グリッドとマッチング (ステップ2)もし,すでにデータが足りているグリッドであれば,このデータの処理を終了し次のデータを処理.データが不足している場合は,ステップ3を実行 (ステップ3)グリッドの中に含まれる複数の道路区間との距離を算出し,最も近い道路区間にデータを紐付ける (ステップ4)グリッド毎にデータ数の十分性を評価 4 リアルタイム渋滞度算出アプリケーション 大規模高速マップマッチング方式をベースに渋滞度を算出するアプリケーションを作成した.プローブカーを,奈良県奈良市,生駒市でシミュレーションさせ[2],位置,速度,方向を解析サーバへ送信した.解析サーバでは,マップマッチングを行い,道路区間毎の渋滞度を算出した.毎秒5万台のデータからリアルタイムに算出することに成功した. 5 評価 基本性能の評価として,従来方式と比較実験を行った.道路本数変化による処理時間の変化は,従来方式がリニアに増えるのに対し,本方式は計算量が一定であることが確認できた.また,車両台数の変化による処理時間の変化は,本方式,従来方式共にリニアに増えるが,本方式は従来方式の14%程度の処理時間であり圧倒的に高速である.また,高精度近似処理は,ランダムにサンプリングした場合,サンプリングレートに比例して精度が悪くなるのに対し,本方式では,精度の低減がほとんどないことを確認した. 参考文献: [1] ソフトウェアエンジニアリング技術研究組合(COSE)ホームページ, 先進的ソフトウェア開発プロジェクト公開デモンストレーション,http://www.cose.jpn.org/ [2] 株式会社フェニックスリサーチ交通シミュレータ『NETSIM日本版 V5』ホームページ,http://www.phoenix-r.co.jp/products/netsim/netsim.htm |